「い、いや。変な意味はないんだ。悪い……。あ、そう言えば、帰り際、ゆなって女の子を助けただろ?」
「っ、はい。迷子になってたみたいで、でも近くにご両親が見当たらなくて」
「その子、小児科のドクターの娘でさ」
「そうだったんですか?」
「ああ。奥さんが、ゆなちゃんを抱いて来て、ちょうど父親は、俺達と一緒に居たから。迷子になった事と、黒川が面倒みてくれてたって説明してくれた。黒川にお礼言ってたよ。後で俺経由で服返すから」
「すみません、ありがとうごいます」
「お礼を言うのは俺の方だ。黒川が女の子を助けたおかげで、その子の父親経由で新薬の契約がとれそうなんだ。助かった。ありがとう」
「そんな……でも良かったです」
迷惑しかかけてないような気がするけど、こんな私でも少しでも役に立てたなら、良かった。
それに、颯ちゃんのお母さんの服も。
後でお詫びとともに、代わりの物を買って行こうと思ってたから。
一安心していると、チラチラ視線を感じる。
昨日のパーティのような、舐めるよな視線ではなく、刺々しいもの。
前髪の隙間から、辺りを見回すと、何人かの女性が睨むように此方をみてた。
それは、社内で時々見かける顔ぶれで……。
しまった!
水戸さんは女子社員の優良物件。
どうして私なんかが隣にいるんだと視線が言っている。
始業時間が迫っていたのでもう一度頭を下げて挨拶をして、逃げるようにその場を辞した。
*** ***
定時までに今日の分の仕事を済ませると、和歌ちゃんが勤めるデパートに向かった。
手持ちの化粧品ではりこにはなれないし、メイクの仕方も解らないから、和歌ちゃんに教えを乞う為だ。
デパートのコスメコーナー。
整然とした雰囲気と、陳列された化粧品はライトアップされ、宝石のように眩しい。
飾られたイメージポスターは、今若者に絶大な人気のあるハーフモデルが自信満々にその美貌を誇っている。
売場はあまりにキラキラしていて、私には場違いな気がしてきた。
あまりの敷居の高さに怯んでいると、ちょうど和歌ちゃんがお客さんをお見送りしようとコーナーの外まで出てきた。
「ありがとうございました~」と慇懃とにこやかにお辞儀をして見送る姿は、普段ちょっと横暴……めんどうみのな姿からは想像に難い。
お客さんも背が高くスレンダーで、とても綺麗な人で。
デパートのコスメコーナーなんて、私なんかが立ち入ってはいけない聖域じゃないかと思える。