「颯……篠田さんには地元の駅まで送っていただいて、そこからタクシーで帰りました。ただ、タクシー代まで払って貰ってしまって……」

「そうか。でも、無事で良かった。あんな綺麗すぎる美形に迫られたら、純な黒川は一溜まりもないだろうなと思って。折を見て、タクシー代返しておくから、黒川は気にするな」

「そんな!私の事なのに水戸さんにお手数をおかけするわけにはっ」

「気にするな。無理やり誘ったのは俺だし」

「あの、本当に……自分で返せるので……。実は……お借りした物を明日返しに行くので……その時に」


何処まで話していいものか……。

自分の不手際を小声で言い淀むと、水戸さんの瞳は大きく瞠って言った。


「それって、2人で会う約束をしたって事!?」


どうしよう……、なんか心配されてる?

家が隣で、幼馴染だから大丈夫ですって言った方がいいかな?

でも、そしたら他人のフリしたところから説明したくっちゃいけなくなる。

あぁ、なんでこんなにややこしくしてしまったの!


「あの大丈夫なので、心配しないで下さい」

「あ、いや……。一応、黒川知らなかもしれないから念の為に言っておくけど、篠田颯吾には婚約者がいるから。美形につられて、深いりするなよ」


『婚約者』の単語に身体が震えそうになった。

両親たちだけじゃなく、他人の水戸さんまで知っているという既知の事実に内心驚愕し、落胆した。

それだけ、2人の関係はオープンなんだと知らされた気がした。

私は、颯ちゃんから何も聞かされてないのに……。

水戸さんが言いたいのは、世間知らずな私は、目の前のイケメンに誑かされるな。

惚れても未来はないんだぞ、と忠告してくれているのだろう。

そんなの、人に言われなくても解ってる。

大丈夫、だって私達は家族だもん。


「婚約者が居るの知ってます。ただ返すだけなので大丈夫です」


自分で言っておいて、心が軋む。

かろうじで口角を上げながらこたえると、慌てたように水戸さんが続けた。