掌には、見覚えがありすぎる颯ちゃんのプライベートのスマホ。

なんて事だ。

でも、こんな個人情報が凝縮された大切な物、早く返さなきゃまずい。

どうしよう……。

明後日、またりこの姿で颯ちゃんと会わなきゃいけない理由が出来ちゃった。

颯ちゃんが……キスしたりこに………。

何だか不快な気持ちになって、スマホを鞄にしまった。



翌日。

少し早めに家を出て、会社の近くのクリーニング屋さんに颯ちゃんのジャケット預けた。

そのまま出社すると、エントランスに水戸さんが立っていた。

私を見つけると、少し慌てた様子で駆け寄ってきた。


「水戸さん、おはようございます。昨日はご迷惑をおかけして、申し訳ありませんでした」


昨日は、ただ隣にいて何の役にもたたなかった上に、仕事どころか酔った私に気を使わせるという不始末。

申し訳なさ過ぎて、合わせる顔がありません……。

深々と頭を下げて誠心誠意、謝罪させていただきます。


「そんなのいいんだよ。それより俺の方が無理をさせて悪かった。本当ごめん。それで……、昨日ちゃんと帰れた?会社や名前を知ってるとはいえ、初対面の男に黒川を任せるなんてよくなかったなって、あの後直ぐ追いかけたんだけど……。反省してる」

「そんな!私がシッカリしてなかったのが悪いんです。本当、申し訳ありませんでした。それに……ちゃんと帰れましたので、お気になさらないで下さい」


私なんかに、そんな気を使われると逆に恐縮しちゃう。


「何もないなら良かった。俺もあんな間近で篠田颯吾を初めて見て、美形な上にあの威圧感に圧倒されてしまってさ。つい黒川をお願いしたけど、黒川酔ってたし、お持ち帰りとかされたらどうしようかと、気が気でなかったんだ」

私なんかをお持ち帰り……ないない、それはない。

ただ……。

ふいにキスされた事を思い出して顔が一気に熱くなる。

こんな顔見られたら、何かあったと勘違いされるっ(あったけど)。

前髪とメガネで表情が隠れてるのが唯一の救いだわ。

それにしても、颯ちゃんから威圧感?あったかな?

そりゃあ、普段溶けそうなくらい甘い笑顔を見ている私には、いつもよりシッカリした感じには見えたけど。