まさか、スーツ一つで颯ちゃんのだってバレた!?
でも、一緒に行った水戸さんのだと思ってくれるかも?
そっちに期待しつつ、スーツの裾をギュッと握って心の中で平伏。
「気づきませんように!」と心の中で手を合わせて、全力で祈るけど、
「な〜んだ、会ってんじゃん」
にかっと笑う屈託ない笑顔に、足元から崩れ落ちそうな眩暈を覚え、咄嗟に塀につかまって項垂れた。
うっ、バレた。
「せ……晴ちゃん……。あ、あのね?確かに今日、パーティで颯ちゃんと会ったんだけど、会ってないの」
「は?」
意味が解らんとばかりに眉間に皺を寄せられた。
「この特殊メイクのせいで、颯ちゃん、私だって、気づいてなくて……。私も、仕事とはいえ、こんな恰好だったし?その……お酒飲んで、体調を崩しちゃったりもしたし?怒られると思って、気づかれてない事を良い事に、つい他人のフリしちゃって……。だから、颯ちゃんとは会ったけど、会ってないって言うか……」
しどろもどろになりながら、言葉を繋いで説明する。
でも、1番知られなくないのは、『リリー』が『りこ』だという事。
通常であれば、あれだけ広い広間でリリーと颯ちゃんが顔を合わさなくても不思議ではないだろう。
早めにお暇したとか、滞在時間がズレてた、とか理由はつけられる。
問題なのは、颯ちゃんと水戸さんは挨拶をし、名刺交換をしている事。
加波製薬の水戸さんの横に居たのは『リリー』ではなく『りこ』。
あの場にリリーは存在していない。
颯ちゃんは私をりこだと思っている。
そして、キ、キ、キスを………した。
家族だと思っている人間に騙されてキスをしたなんて知ったら、どう思うだろう。
男の人と特殊メイクまでしてパーティに行って、お酒を飲んで体調を崩すという失態も犯した。
それだけで颯ちゃんの逆鱗必須事項なのに、騙した上に……その……キスをしただなんて、幻滅して嫌われてしまう。
「だから……ね?今日、私がパーティに行った事は、颯ちゃんに内緒にしておいてほしいの」