気が付いたら、運転手から返されたおつりを握り、走り去るタクシーのテールランプを眺めていた。

頭の中を占めるのは、颯ちゃんとの、キス。

熱を持つ頬に手を当てて、必死に冷やす。

今日はお母さんが居るから、こんな顔見られたら不審がられてしまう。

しかもこの恰好!

一応、仕事で今日遅くなるとは連絡してあるけど、パーティとは言ってないしなぁ。

今家に入ったら吃驚されて彼是聞かれても困るし。

家に入るに入れず、足踏みしていると、隣の家から晴ちゃんが出てきた。


「あれ?りり、おかえり。家に入らないでどうした?」

「……ただいま。晴ちゃんこそ、こんな時間にどうしたの?」

「俺はコンビニに行こうかと思って。て、顔赤いけど具合悪い?」

「えっ!?ぜ、ぜぜぜ全然大丈夫だよ!えっと、その、風にね……、そう、ちょっと風に当たってたって言うか……。今日熱いよね!」


さっき颯ちゃんとキスしちゃって顔の火照りを取ってた、なんて、口が裂けても言えないもんね。

今の私は、叩けば埃しか出ない自信があるよ!

余計なツッコミをされないよう祈りながら、手を団扇代わりにパタパタ仰いでみせる。


「いや、普通に寒いけど」


……ですよね~。


「んで、パーティどうだった?てか、バタバタしてて忘れてたけど、そのパーティ颯兄の同級生の妹のでさ、颯兄も招待されてたんだけど、あっちで会った?あ、でも欠席するって言ってたかな……?」

「………」


晴ちゃん、それを早く言って欲しかったよ。

颯ちゃんが来るって解ってたら、心構えというか覚悟というか、兎に角他人のフリなんかしなかったのに。

りこにならなかったら、颯ちゃんとキス……なんて……しなかった。

『他人』にキスする颯ちゃんなんて、知りたくなかったのに……。


「りり?そのスーツ……」


私が羽織っている物を注視され、ギクッと肩が震える。

急に笑み深める晴ちゃんに戦き、自然と背筋が伸びた。