「ダメです!これはやりすぎですっ」

「う~ん……。困ったね~。なるべく一番安全な方法で家まで送りたいんだけど……。じゃあ、やっぱり家まで送らせてくれる?」

「だ、ダメです!それに、そんな心配されなくても、だいじょ……」


骨ぼったい指が伸びてきて、顎を救い上げる。

その瞬間。

言葉を塞ぐように、唇には温かく柔らかい感触が―――。

頭の中が真っ白になった。

唇がはなれると、顎から外れた指先は流れるように輪郭をなぞると、解けたサイドの髪を耳に掛ける。

艶のある触れ方に、困惑しながら上目使い気味に瞳を上げると。


「俺、下心がない訳じゃないって、言ったよね?」


瞳の奥が仄暗く光ったような気がした。


「じゃあ、おじさん。宜しくお願いします」


ドアが閉まり、車内に残された私は放心状態で、遠ざかっていく背中を追っていた。

そんな私を颯ちゃんが一瞬振り返って見せたもの。

それは、悪戯が成就した時の子供のように無邪気な満面の笑顔だった。