私は、断る隙も与えられず、助手席に押し込まれる。


「何処まで行けばいい?」


うっとり颯ちゃんに見惚れていたけど、その言葉で我に返る。

非常にマズイ状況に狼狽しまくりだ。

送ってもらうだなんて、とんでもない!

そんな事したら、私がリリーだってバレちゃう!


「ひ、1人で帰れるので大丈夫です!」

「ダメだ。まだ顔色が悪い。1人で帰すなんて危険だ」


慌てて首を振って断りの意を告げる私に、颯ちゃんは間髪入れず却下し、頬に触れてきた。

高鳴る鼓動を隠すように、瞳を逸らす。

遮るものがないのに、颯ちゃんの瞳に見つめられると平常心で対峙する自信がない。

どんなに変身したって、一皮むけば私はおブスなリリーなのだ。

さっき香織さんらしき声を聴いたばかりだし、1人になって気持ちを整理したい。


「安心して。家までおしかけるような真似はしないよ。君の都合のいい場所を教えて。そこまで送る」

「す、すみません……。決してそういう意味では……」


存外、送り狼お断り!と、とらえられてしまったかと、謝罪する。


「いいよ。こんなご時世だし、初めて会った人間に警戒心を抱くのは当然だし大事な事だ。まぁ……全く下心がないと言えば嘘になるけど」


此方に流した瞳に、一瞬鋭い光が灯っていた気がして瞠目をした。

だけど、すぐ破顔して笑ったので、揶揄われたのに気づき、忸怩で顔が熱くなる。

家までじゃなければ……大丈夫かな。

地元の駅名を告げると、車がゆっくり発進された。




駅でハザードをつけて、車を路肩に寄せてくれた。

お礼を言って、借りていたジャケットを簡単に畳み助手席に置いて車を降りる。

そのままバス停に向かおうとすると、颯ちゃんが追いかけてきて、肩にまたスーツジャケットをかけられた。


「寒いから着ていきなさい」


腕を引かれて客待ちをするタクシー乗り場へ向かうと、今度はタクシーに押し込められる。


「あ、あの……っ」

「これでこの()が言う所までお願いします」


私の言葉を遮り、運転手のおじさんにお金を渡した。

その様子にギョッとして、


「そこまでしていただく訳にはいきません!自分で支払いますから!」


焦って座席から颯ちゃんに訴えると、苦笑された。


「男に最後まで花を持たせてよ」