「わっ、リリー危ない!」

「えっ!?あっ、きゃっ!」


落とさないよう、指先を天井に立てるようにすると、第二関節で指輪が引っ掛かって止まった。

「はぁ~」と胸を撫でおろし、ドキドキする心臓を空いた手で服の上からおさえる。

私の給料では、とても弁償出来る代物ではない。


「自分で言うのもなんだけど、決して安いヤツじゃないから、とりあえずつけててよ」


颯ちゃんは微笑みながら、改めて手を掴み、指輪を付け根まで嵌めこんだ。

それはまるで、ドラマのワンシーンのようで、自分の指に嵌められたものだとは信じられない。

手の部分だけ、切り取った違う映像にみえて、とても不思議な感じする。

息を飲んでその様子を瞳に焼き付けるように見入ってしまった。

左薬指って、恋人が居る事や、結婚してる人がするものじゃないの?

私達は恋人同士ではないし、昔から変わらず、家族のような関係だ。

薬指の敷居って、私が思っているほど高い物ではないのかな?

恋愛経験が皆無の私には、全く理解が出来ないし、逆に変に意識してしまって恥ずかしい。

繋がれた手から、感じる颯ちゃんの体温。

それだけで、高揚してきて変な汗が噴き出してくる。

ヤバイ。

私、今絶対顔赤い。


「リリー可愛いな。このまま会社に行かず、家に閉じ込めてしまいたいよ」


そんな不穏なセリフは冗談だと解っていても、ついときめいてしまう。

颯ちゃんは瞳を細め、いつもよりも優しく笑みを深めていた。

また、揶揄われてる。

解ってるのに、ドキドキが半端ない。

うぅ……心臓が口から飛び出そう……。

私には、ちょっとした言葉もハードルが高すぎる。

対処の仕方に戸惑う私を楽しむかのように、颯ちゃんはやっぱり笑う。


「さ、行こうか」


シートベルトをして、ハンドルを握った。

指先にあった温もりが遠のいて、寂しさを覚えつつ、私も慌ててシートベルトを装着する。

シフトをドライブにいれられ、車はゆっくり発進した。


「リリー」


手を差し出されて、右手を重ねると、そのまま握り返されてしまい、頬が熱くなる。