颯ちゃんは親しい友達とこういう話し方をするんだと、発見である。
そう言えば、颯ちゃんの友達という人に会うのは初めてかもしれない。
友達はいるだろうけど、時間があれば殆ど私と一緒に過ごしていたような気がするから、こんな砕けた態度で人と接する姿なんて初めて見た。
意外な一面を知れて、頰を緩める私。
だけど、浮かれる私にウサギから予期せぬ爆弾が投下された。
「あ~、そうだ、伝える事あったんだ。さっき親父と千尋のとこに、香織が来てたぞ」
『かおり』
それは、私を動揺させるには十分すぎる名前だった。
頭に走った稲妻が、身体中の血の気を引かせていくようで、身震いする。
婚約者という存在は噂話だけで、煙のようにつかめなず、形もなく、何となくその辺を漂ってるだけのものだった。
もしかしたら、何かの間違いで、存在してないんじゃないかと期待していたのも否めない。
だけど、そのUMA(未確認生物)なみな存在が、ここにきて急速に自分を誇示すように顕在した。
動揺する私と対照的に、颯ちゃんは顔色ひとつ変えず、
「そうか」
然もない様子でこたえると、ゆなちゃんをウサギに差し出す。
「ほ~ら、ウサギ星人ですよ~」
「こんにちは~、て俺宇宙人かよ!?」
ウサギは優声でノリノリでゆなちゃん着ぐるみらしい動きでもてなしている。
颯ちゃんに抱かれたまま、ウサギに触れ嬉しそうに笑うゆなちゃん。
その様子を少し離れたところから窺いながら、私は卒倒しそうな身体を棒立ちさせるのが精一杯で、もうこの場所から1秒でも早く逃げ出したかった。
颯ちゃんの婚約者が、ここに居る。
さっきの高坂院長がいた場所に行けば、どんな人か見れるかもしれない。
でも、それを視認してしまえば、もう今までのように知らないふりは出来なくなる。
いくら幼馴染でも、いくら家族のような関係でも。
そこに血の繫がりもなければ、世間的には他人であって、今までのように颯ちゃんを家に迎えるのは難しい。
今の私は、ゆなちゃのように無邪気な子供ではない。
見た目はどうあれ、私も一応成人女性。
世間から、颯ちゃんが婚約者がいるのに他の女と夜2人で過ごしてるなんて、余計な勘ぐりをされたら大変だ。