私もこのくらいの歳の頃、颯ちゃんによく抱きあげられて移動してたけど、やっぱ男の人とは同じようにはいかないな。
とりあえず、濡れた物も着せたままにしておけないよね。
「お名前は、何ちゃんですか?」
「……ゆな」
「ゆなちゃんか。可愛いお名前だね。じゃあゆなちゃん、お洋服濡れてるから、上だけ脱いでもらってもいいかな?」
館内は一定の温度で温かく保たれているけど、それでも身体を冷やして風邪なんか引いたら大変だ。
羽織っているカーディガンを脱がせて、私が着ているボレロでゆなちゃんを包んだ。
中のフリルのブラウスも湿っぽかったけど、流石にコレはここで脱がせる訳にはいかない。
やっぱり何処かに移動を……。
そう考えていると、ふわりと白く大きな布が視界に広がった。
顔を上げると、颯ちゃんが大判タオルをゆなちゃんに掛けたところだった。
「ごめん、持ってくるのが遅くなった……」
申し訳なさそうに、軽くゆなちゃんの髪をタオルドライ。
ハンカチで拭くより、断然給水力があって子供の柔らかい髪はすぐにでも乾きそうな勢いだ。
私を一瞥すると、訝し気に眉を顰める。
何故か避難がましい瞳に身を竦めると、颯ちゃんは自分のスーツジャケットを私に羽織らせた。
「肌……露出しすぎ」
そんなに袖短くないつもりなのに、露出しすぎ?
館内に、もっと下着みたいなドレスにストールを巻いてた女性を見たけど……。
きっと、私なんかが二の腕を出すと、見苦しいって意味かもしれない。
居たたまれず俯くと、私からタオルごとゆなちゃんを抱き上げ、もう片方で私を引っ張り上げる。
周囲から注目を浴びてしまってる事に、胸がキュッと軋むけど、颯ちゃんが傍に居るという安心感からか発作とまでは至らなかった。
颯ちゃんが抱きかかえているゆなちゃんに目線を合わせる。
「母親、探さないとな……」
さっきまで泣いていたゆなちゃんは、目の前にある美貌にロックオンしたようで、今までと打って変わて、瞳が爛々と輝きだした。
その姿は、子供の頃の私を彷彿させる。
やっぱり、颯ちゃんは王子様なのだ。
「颯吾」
声のする方向に振り返ると、ウサギの着ぐるみが小走りに近寄ってきた。