すぐ、興味本位にテーブルクロス引っ張って、上にのってた料理をぶちまかしてしまったんだろうと推測出来た。

ホテルの給仕係数人が、手際よく床と料理を処理する中、女の子は母親を求めて泣きじゃくっている。

だけど、母親は席を外しているのか近くには居ないようで、代わりに女性の給仕係が女の子をあやしているけど、一向に泣き止む気配もなく。

寧ろますます張り上げられた泣き声に委縮してしまっている様子だ。

いたたまれず駆け寄ると、女の子に目線をあわせて屈み微笑んでみせる。


「大丈夫?」


出来るだけ声色を柔らかくして話しかける。

女の子は少し警戒した様子だったけど、「おいで」と軽く両手を広げると、嗚咽しながら真っすぐ縋りよってきたので、そのまま抱きしめた。

頬にあたる髪から滴る水滴と、衣類から伝わる濡れた湿り気が、女の子の置かれた状態を訴えている。

片手で器用にバッグからハンカチを取り出し、涙を拭いてから濡れた髪から丁寧に水気とる。

テーブルの下に花瓶から飛び出た花が散乱してあって、もしかしたら花瓶の水をかぶってしまったのかもしれない。

突然頭上から色々落ちてきて、どれだけ驚いただろう。

頭にコブがある感触もないし、花瓶が直撃しなくて本当良かった。


「吃驚しちゃったね~。もう大丈夫だよ~」


言い聞かせるよう優しく背中をポンポン叩く。

私が子供の時、いつも颯ちゃんがこうして宥めてくれてたっけ。

子供をあやしつつ周囲を窺ってみるけど、遠巻きにしている人ばかりで、やっぱり母親らしい人の姿は見当たらない。

この子は、1人でどれだけ心細いだろう……。

女性の給仕さんに「任せてください」と目配せをすると、ちゃんと伝わったようで、申し訳なさそうに頭を垂れて床の掃除へ加わった。

女の子は、瞳いっぱいに涙をためて吃逆をしているけど、少し落ち着いたみたいでほっとする。

言葉を紡ぎながら、背中ポンポンを継続。


「ママ、何処に行ったか解るかな?」


たずねると、首を横に振られてしまった。

私の膝に乗って、胸元に縋るってくる姿があまりにも可愛くてキュンとくる。

母性本能か、庇護欲か、不謹慎にも微笑んでしまう。

探しに行きたいけど……抱っこして立ち上がろうにも、ピンヒールで子供を抱えたままでは、座り込んだ状態からはとても不可能だ。