少し冷静になった頭で考える。
私がここに居ても、水戸さんみたいに薬の知識もない。
コミュ障だし、気の利いた対応はまず無理。
発作に続き、苦手なアルコールで顔色が悪いみたいだし。
……私、足手まとい……だよね。
「俺が送って行こう。ここへは近くに来たついでに少し寄っただけで、すぐ帰るつもりだったし」
颯ちゃんが私を見てそっと微笑むと、水戸さんが横に立った。
「いえ、それは私が……。彼女は身内の者ですし、篠田さんの手を煩わせる訳には参りませんので」
「……私をご存知で?」
「はい、篠田商事の篠田颯吾さんと言えば、有名人ですから」
「そうですか………。では改めまして、篠田建設株式会社の篠田颯吾と申します。宜しくお願い致します」
颯ちゃんがスーツの内ポケットから名刺を差し出す。
その動作をみて……正しくは颯ちゃんが内ポケットに手をやった瞬間、水戸さんも営業の習性なのか、反射的に自分の名刺を用意して、
「も、申し遅れましたっ。加波製薬株式会社、営業課の水戸恭介と申します。此方こそ、よろしくお願い致します」
お互い軽く会釈をしながら名刺交換をする。
珍しく水戸さんが緊張の色を見せていた。
颯ちゃんは、ビジネス雑誌に掲載されたりする有名人だ。
更に、写真でしか颯ちゃんを知らない人は、現物の圧倒的なハイスペックな美貌にやられてしまうらしい。
それをこんな間近で受けたら……当たり前の反応なのかもしれない。
見慣れてるはずの私ですら、未だ赤面したりドキドキするもの。
いつもほんわか柔らかい颯ちゃんが、キリッと威儀を正す姿はとても新鮮。
凛々しくて、急上昇する自分の体温でのぼせちゃいそう……。
少し近寄りがたい雰囲気だけど、端然とした面持ちは私が普段瞳にしている、相貌を崩した颯ちゃんの片鱗は見当たらない。
だけど、それが一層、颯ちゃんの眉目秀麗さをより際立たせていて、周囲で歓談している女性陣は勿論、男性陣ですらその姿に見惚れている。
水戸さんも、我が社の王子と言われるほど女子社員に人気がある人だけど、それでも颯ちゃんは別格だ。
水戸さんの名誉の為にも念を押すけど、水戸さんも十分イケメンで素敵な男性ですよ!