そう……だよ、ね。
話の感じから、ウサギの男性は颯ちゃんの友達のようだし、友達なら婚約者を知ってるはず。
その妹なら当然……。
「千尋もひでーなぁ。俺は純粋にパーティを盛り上げようとだな、わざわざ着ぐるみを借りてきたんだぞ?」
「それ、お兄ちゃんがしたかっただけでしょ?」
「正也、とりあえず着替えてきたら?」
「颯吾……それ、いつも色々フォローしてる俺に言う?」
3人が親しそうにすればするほど、私の知らない颯ちゃんが垣間見られ、遠くに感じる。
これが、現実。
そして、私の知らない颯ちゃんには、婚約者が……。
そう思い知ると、一気に血の気が引いていく。
颯ちゃんもそろそろって、何?
結婚するって事?
なんだか泣きたくなって、颯ちゃん腕の中から身を引くと、今度は割と簡単に開放された。
「大丈夫か?帰るなら送るけど」
水戸さんが、気遣ってくれる。
帰りたい。
もう此処にはいたくない。
でも、仕事で来てるのに途中放棄なんて、そんな無責任な事もしたくない。
理性をかき集め首を振ると、水戸さんが気遣わしげに瞳を揺らす。
仕事なんだからシッカリしなきゃって思うのに、現に発作で人に迷惑かけてる。
私、帰った方がいい?
私、子供みたいな事言ってる?
頑張ろうと思う自分と、ついていけない自分との葛藤で、正しい判断が出来ない。
情けない。
何も出来ない自分が、本当に情けないよ。
「……君は帰りなさい。酒も苦手なんだろう?」
颯ちゃんまで帰れと言いだした。
怒られた犬のようにシュンとした時、ふと違和感を覚えた。
何かがおかしくて、確かめるように色素の薄い茶色い瞳を見上げる。
「顔色も悪いし、これ以上無理にここに留まっても何にもならない」
「りこさん、私も何も確認せずお酒を勧めてごめんなさい。帰るにしても少し休んで行く?何かあった時用に上に部屋をとってあるから、そこで少し休んでく?何ならそのまま泊まっても」
千尋さん、りこではなく梨々子です。
自己紹介の時、噛みまくったから間違えて覚えられてしまったらしい。
沢山いる来賓客の内の1人でしかないし、今日たまたま駆り出されただけだから、訂正しなかったんだよね。
「いや……そこまでではないだろう。外の風にあたりながら帰れば、酔いも醒めてスッキリするかもしれない」
颯ちゃんの一言で、私はすっかり帰宅決定のようだ。
此処に居て、これ以上迷惑をかけちゃ……ダメか。