「……はい。驚かせてしまって、すみません」

「悪い。俺も気づけなくて……」


他のドクター達は「過呼吸の殆どは精神的ストレスだからね。いい病院紹介しようか?」「それ、うちの病院ってオチだろう?」と落ち着き払った様子で笑っている。

こんなに苦しい思いをした身としては、全然笑えない。

まぁ、これだけ医師が揃っている場なので、何かあっても早急に処置してもらえただろうけど。

何より、このウサギの男性が颯ちゃんに「お見事でした」と言ってたから、対処として大丈夫なようだ。

一応、診察をすすめられたけど……よほどの事がない限り私の発作……過呼吸は起こらないから曖昧に返事をした。

あまり人に関わらなければいいし……。

水戸さんと瞳が合うと、颯ちゃんにくっついたままの私を見て片眉をあげた。

あ。

公然の場なのに、不謹慎でした。

代わりに水戸さんが手を差し出してくれたけど、その手を取る以前に颯ちゃんが開放してくれなかった。

颯ちゃんの穏やかなアルカイックスマイルに対し、水戸さんは瞳を細めた。

少し不穏な空気が漂い始めた時、


「もう、お兄ちゃん。恥ずかしいから、それ脱いでよ!」


千尋さんがやってきて、ウサギの着ぐるみの男性を小突いた。

お兄ちゃんってことは、高坂院長のご子息??

さっきまで上品に笑っていた千尋さんが瞳を眇めたけど、美人は怒った顔もやっぱり綺麗だった。


「あ、颯吾さん!来てくれたの?今日は仕事で来れないって聞いてたのに」


千尋さんがほんのり顔を赤らめた。

なんか……もやもやする。


「ちょっと時間が出来たから寄ってみたんだ。千尋、婚約おめでとう。式は来春って聞いたけど……」

「ありがとう。そうなの。来年の誕生日にあわせようと思って。颯吾さんもそろそろかしら?」

「さぁ、どうだろうね」

「また、そうやってはぐらかす……」


心臓が、過呼吸の時とは違う大きな音をたてた。

颯ちゃんは、言及された言葉に笑みを崩さず応える。

でも、否定の言葉はなかった……。

今まで像を成さなかった颯ちゃんの婚約者の輪郭が見え隠れする。

千尋さんは……香織さんの事を知ってるの?