メイクって、こんなに時間のかかるものだとは思ってもみなくて。
今まで私がしてきたものは、いったい何だったのかと首を傾げてしまう。
まぁ、ファンデをぬるだけだったから、果たしてメイクと言っていいのかは疑問だけど。
私みたいな不細工さんには、和歌ちゃんがしてくれたみたいな本格的特殊メイクは、やっぱり時間を費やしてしまうものなのかもしれない。
とりあえず、時間が迫っていたし、私が慣れないピンヒールでの移動は大変だろうと言う事で、晴ちゃんが気を回してタクシーを呼んでくれていた。
2人へのお礼もそこそこに、急いで会場になる某ホテルに向かう。
途中、花屋に寄って院長の娘さんの婚約祝いにと真っ赤な薔薇の花束を購入。
大きな花束を軽々と片手で持つ水戸さんは、凄く様になっていて、店員さんも頬を染めて見惚れてる。
水戸さんが会計を済ませに行ってる間、花束を預かって待機してると、「素敵な彼氏さんですね」なんて、他の店員さんが話かけてくるもんだから、ちょっと困ってしまった。
私なんかの彼氏だと勘違いされては水戸さんの名誉に傷がついてしまう。
全力で首をふると、戻ってきた水戸さんに顰め顔をされてしまった。
早々に迷惑をかけてしまったような気がして、やっぱり俯いた。
パーティ会場となる某有名ホテル。
到着すると、先にタクシーから降りた水戸さんが手を差し出してくれる。
紳士だなぁ。
ドレッシーな装いに、きちんとヘアメイクして。
気分はお姫様?
なんて、烏滸がましい私を許してください。
遠慮なくその手につかまって地に足をつけると、初めて履く高めのヒール、しかも、先の細いピンヒールに足元不安定でグラグラ。
必死に水戸さんの手にしがみ付いて、バランスをとる。
どんなに身なりを整えても、やっぱり恰好のつかない私……。
ホテルの周りには、3分咲の桜の木が並んでいる。
温かい日が続いているから、きっとあっという間に満開になるだろうな。
すっかり帳を下した夜空をバックに微かに色づく蕾を纏って、桜の木は幻想的な雰囲気を醸し出していた。
先に花開いた桜の花は、ただ静かに風に揺られ、少数ながらも存在感がある。
「歩ける?」
「あ、はい。すみません」