「わ、和歌ちゃん……く、首……が……」
痛い……。
「時間がないんだから黙って。メイクは5分10分で出来るもんじゃないのよ?」
「えっ!?」
私のメイクって5分位で済むけど、他の人って10分以上もかかってるの!?
和歌ちゃんに瞳を眇められたけど、何も言わず。
茶色の緩くウェーブした髪をかき上げたかと思うと、おもむろに机上に化粧品を並べ始めた。
和歌ちゃんの手が私のメガネを外して、前髪に触れて、大きく肩が震える。
「りりの顔なんか小さい頃から見てるんだから、今更何とも思わないわよ」
石のように固まった私に構う事なく、クリップに板がついたピンで前髪を留める。
発作は……起きなかった。
颯ちゃんに和歌ちゃん。
どうやら慣れてる人には拒否反応は起きないらしい。
「これ、羽ピンって言うのよ。前髪に跡がつきにくいの」
女子力の低い私に、さっきとはうって変わって穏やかな声音で説明してくれる。
私がしていたメイクを落として、化粧水からやり直すらしい。
「私、メイクしてって連絡貰って、凄く嬉しかったの。いつまでも過去に囚われて、うじうじしていたりりが、メイクしたいって、変わろうとしてくれてるのかなって思ったら、彼氏放ってメイクボックス持って飛び出してきちゃった」
猫目を垂れ下げて、柔らかく微笑む和歌ちゃん。
どうしよう。
自分の意思ではなく、断り切れずに勢いに押されてパーティに行く事になっただけなんて……言えない……。
でも、和歌ちゃんが嬉しそうに笑ってくてるのが嬉しい。
「ちゃんと綺麗にしてあげるわ」
「私なんか、綺麗になんて……」
また俯こうとすると、和歌ちゃんの指が阻む。
「あら?私これでも美容部員の端くれよ?これで生計たててるんだから舐めてもらっちゃ困るわ」
鷹揚に胸を張ってみせる。
「りり。自分に自信がないのは皆一緒よ?」
「……でも和歌ちゃんは可愛いし」
「私くらいなんていっぱいいるわよ。この仕事してると、コンプレックスをなんとかしたいって、相談にくる人も多いんだから」
「………」
「メイクはね、見た目だけじゃなく、心だって綺麗にしてくれるの。少しでも綺麗になれたら、気持ちも上を向くじゃない?」