頷くと呆れたように瞳を瞠らせた。


「じゃあ、スーツは?」

「それなら……!」

「言っとおくけど、リクルートスーツじゃないヤツな」

「………」


移動中にハンカチも返せて、肩の荷がおりたと安心していた私は、油断していた。

だって、まさか突然「パーティに行くぞ!」なんて、無茶ぶりをされるとは思ってもみなかったから……。

だいたい、何故そんな服を強要されているのかというと、水戸さんが担当している病院の創立記念パーティに出席する為だ。

なんでも、我が社で開発した新薬を売り込みたいけど、あまりいい返事をいただけていないとか。

まぁ、病院側からすれば今、の薬で困ってないなら、使い慣れた物の方が良いと言うのは納得よね。

だけど、会社としては莫大な費用と時間をかけた新薬を是非とも普及させたい、その気持ちも解る。

その薬が、どれだけ安全で治療に効果があるかという点を理解してもらい、普及させていくことがMRの役割だというけど……。

加波製薬に勤め始めて、初めてMRという呼称を知った。

人見知りな私は、その質問すら先輩方にする事が出来ず、颯ちゃんに質問をぶつけたんだよね。

だって、いつも勉強で解らないとこを教えてくれたのは、颯ちゃんだったから……。

颯ちゃん曰く。

1つの薬を開発するのには、9年~17年の月日がかかるとか。

基礎研究に2~3年。

非臨床試験に3~5年。

臨床試験に3~7年。

承認申請と審査に1~2年。

天然素材、化学合成、バイオテクノロジー。

さまざまな科学技術を活用して、薬の候補になる化合物をつくりその可能性を調べるところから始まり。

研究と試験を重ねに重ねて、薬として有効性、安全性、品質が証明されてから、厚生労働省に承認を得るための申請が出来る。

ただ、研究対象になってた殆どの候補物質は、途中の段階で開発を断念されることが多く、成功させるのとても難しく大変なんだとか。

うぅ~ん。

本当はもっと難しい事を言ってた気がするけど、私の記憶に残ったのは、流れ的にざっとこんな感じのお話だった。

薬局やドラッグストアに並ぶ薬は、そういった経緯を通過した物だと思うと、なかなか感慨深いよね。