立っていた男性を見て、私は「あれ?」と記憶に新しい男性と照合させる。

奥二重の力強い瞳が印象的な釣り目と、すっきり通った鼻をしたイケメン君。

今朝から散々探し回った男性が、そこに立っていたのだ。

フロアを一周見渡し、誰かを探している様子。

ちょうどいい、ハンカチを返さなきゃ。

これ幸いとばかりに、ハンカチを取り出そうと鞄に手をかけると、男性の瞳が私で停止し瞳を瞠った。


「居た!」


真っすぐ此方にずんずん迫ってくる。


「おう、水戸じゃん。どうした~?」


三沢さんが声を掛けた。


「珍しいな恭介。お前が経理に来るなんて。なんだ、飲みの誘いか?」


野村さんも声を掛けた。

水戸?

恭介?

水戸恭介……。

って、あの、水戸恭介(みと きょうすけ)!?


「今日はお前たちに用はない」


つり目を細め、しっしと手で払うような仕草をみせる。

「感じ悪いな~」と三沢さんと野村さんが口を尖らせてブーイングする中、水戸さんは私の前に立ち、見事な仏頂面で見据えた。

蛇に睨まれた蛙の如く、妙な緊張感にたじろぐ。


「黒川梨々子。これからちょっと付き合ってほしい所があるんだけど」

「……………はい?」


何か聞き間違えた?

今何処かに誘われたような……。

いやいや、あり得ない。

こんな世界が違いすぎるイケメンが、私なんかに声を掛けるなんて。

長い前髪の隙間から表情を窺い見ると、じっと此方を凝視する視線とぶつかった。


「それとも、何か用事でもあるか?」

「え、あの……いえ…」

「じゃあ、時間がないから急いで」


ただそう言うと、腕を引っ張り何処かへ連行しようとする。

え?

え?

状況についていけず、もつれる足で必死にバランスを取りながら、引かれるままに進む。

野村さんと三沢さんの非難めいた声を無視して、水戸さんはお構いない。

私の意思は関係なく、急かされるまま更衣室で私服に着替えると、再び水戸さんに連行され会社を出た。

そして、移動し着いた先は、何故か私の家の玄関先。

私は小さく身を縮めていた。


「は?フォーマルの服、持ってないの?」