「どうって、返すよ?」

「ダメ!こんな物、さっさと捨てなさい!」

「借りた物は返さなきゃダメでしょ!?それに、颯ちゃんだって、人の物はきちんと返しましょうって言ってたじゃないっ」


驚愕の発言に、つい大きな声をだしてしまう。

小学校の時。

図書館で借りた本はきちんと返しましょう。

お友達から借りたお人形、ゲーム、DVDはきちんと返しまょう。

確かそう教えたのは、他ならぬ颯ちゃんだ。


「それとこれは別です」

「同じです!どうして大人になった途端、そういい加減になっちゃうの!?」

「危ないからだよっ。男なんて皆狼なんだから、こんな可愛いリリーが、危険に飛び込んでいくのを黙ってられるわけない」

「私が可愛いわけないでしょ!」

「可愛いよ!」


子供がタダを捏ねるように颯ちゃんは続けた。


「俺には、可愛くて可愛くて……。一時だって離れたくないのに」


きっと、その言葉の後ろには『心配だから』と、つくのだろうと容易に想像出来て、泣きたい気持ちになった。

手を握られ、指先で撫でられる。

私の手をすっぽり包んでしまう、大きく温かな手。

小さい頃は、何も考えずこの手にすべてを託せていた。

でも、これはもう私のものではないから……。

俯き、ゆっくり温もりを手放す。


「でも、人の物だから、返さないと……」


頭上から、颯ちゃんは大きな溜め息がした。


「……そうだね。大人がきちんとしないと、示しつかないね」


お互い、冷静に言葉を交わす。


「子供にそう教えた本人が、逆の事を言っちゃいけないよな。リリーが真っすぐ育ってくれたのを目の当たりすると、俺ってつくづく子育て上手だと誇らしく思うよ」


呟き声に、ちくり、胸が痛む。

颯ちゃんに、自分がどう見られてるかは解っているつもりだった。

今更悄然する必要もないけど、本人の口から直接事実を聞かされると、眩暈で卒倒しそうな気分になる。

いつまでも、颯ちゃんにとって私は、後をついて回る子供のままなんだね。


「では、改めて。リリー、借りた物はきちんと返さないといけません」

こくり、頷く。