お互い仕事が休みの前夜は、朝まで抱き合い、愛を囁き、リリーもそれに応えてくれる。

翌日は手を繋いで買い物に行ったり、ドライブに出掛けたり。

リリーはりこで居るだけで、花が綻ぶような鮮烈な笑みを浮かべる。

それが、リリーにとって刹那の時を精一杯噛みしめてるとは、思いもせずに。

今まで感じていた距離が嘘のように解消され、それが嬉しくて、こんな生活がずっと続くかのような幻想すら抱いていた。

俺の噂話やリリーがりこと偽る事も、俺にとっては大したの問題ではなかったのだが。

この失念が、後々リリーは勿論、自分自身をも惨憺たる絶望の淵にたたせる事になる。

リリーの心を燻るを原因に気付かず、更に、予想だにしない者が惹起するとは露とも知らず。


何の前触れもなく、リリーが消えた。


会いたい。

抱きしめたい。

その細い華奢な腕を首に絡めて、愛らしい笑顔とともに名前を呼んでほしい。

冷たいシーツの中、愛おしい温もりを求めて手を伸ばしては空を切る。

それは、血こそ出ないが、心臓を抉るような凄まじい痛み伴った。

リリーを失った心の空間は、嵐のように荒れ狂い、無為に生き続ける絶望でしかなかった。



「なんだろう。俺、颯吾見てると、刷り込みって言葉を思い出すよ。刷り込み、解る?かの有名な鳥のアレよ、アレ」

「いや。鳥じゃなくて、どっちかっていうと光源氏じゃね?なぁ颯吾?」

「あ。自分好みの~、てアレか?颯吾、おまえ現代版光源氏だな!」

「ちょっと、颯吾聞いる?」

「だいたい、リリーちゃんの時と俺達に対する態度全然違くね?冷たい!」


小さなリリーに誠心誠意尽くす姿を、散々生ぬるい瞳で見守ってきた辰巳と正也。

茶化してるのか祝ってんのか。

好き勝手に言いまくる2人を無視して、無言でビールを飲み干す。

やっと、名実ともに手に入れたリリー。

将来の容姿など興味はなかった。

顔を隠して、目立たないようにしてるなら、それでもよかった。

俺だけを見て、俺だけのものであればいい。

そうすれば、誰にも触れられない。

俺だけのリリー。