庇護欲は、既に成熟した恋へと発展していた。
幼少期から知っている女の子に、これ程身を焦がすような情熱を抱くとは思いもしなかった。
自覚してから募り続けた想いは、今更手放せないし誰に譲る気もないのだから。
就職して、一通り社会経験を積んだ事だし、そろそろリリー自分の中に収めたい。
単身赴任中の黒川の小父さんの許へ、プロポーズすると挨拶に伺った。
小父さんの激励を受けて、その足で婚約指輪と結婚指輪を即購入した。
誕生日の夜にでも2人でゆっくり過ごしつつ、プロポーズしようと思っていたけど、自分でも思いのほか舞い上がっていたらしい。
逸る気持ちを抑え切れず、朝に婚約指輪を渡してしまった。
きっと喜んでくれる。
そう思ってたのに、返ってきたのは受け取り拒否。
失敗した。
やっぱり夜ゆっくり渡すべきだった。
指輪を出勤時間に思いの丈を伝えるには時間が足りなすぎる。
ハイブランドのブライダルシリーズのこの指輪を見れば、語るより俺の気持ちが明け透けだろうと、たかを括っていた。
微妙な距離がある今、半端に言葉を紡げば溝が深まるかもしれない。
だから、態度で示すつもりで、手を取り、左薬指に指輪を嵌めた。
リリーは凄く驚いていて、返そうとしてきた。
これでも通じないのか?
頼むから拒絶しないでくれ。
戸惑うリリーに落胆しながら、内心ごちる。
その日の夜、リリーのもとを訪れると、ルームウェアなのに指輪をしたリリーが出迎えてくれた。
胸が沸き立った。
でも、それも束の間。
夕食を終えて向かったリリーの部屋で男物のハンカチが干されていた。
荒れ狂う心は、プロポーズどころじゃなかった。
タイミングを完全に失ってしまったけど、これから攻めていこうと決意を新たにした。
そんな矢先の事だった。
職場のデスクでPCに向かっていると、ジャケットの内ポケットに入れてある仕事用の携帯が震えた。
ディスプレイに表示された番号に見覚えがあった。
1度目は無視した。
2度目は留守電に差し替えた。
3度目には、流石に通話ボタンを押した。
『やっと通じた~』
弟の晴太の呑気な声が耳を打つ。
「仕事中だぞ」
『知ってるよ。それでも急用だからこっちに電話したのに』
「……それで?」
『りりがさ、化粧して男と出掛けたよ』