可愛い。

世間では、焦がれたり患うような思慕はなくとも、俺達には穏やかで落ち着いた安心感がある。

リリーは大切だし、好きだし、可愛いと思うし。

結婚したら、こんな安らぐ毎日が死ぬまでずっと続くんだろう、そう思っていた。


あの瞬間までは―――。


リリーはあっという間に大きくなった。

小学校を卒業とともに、富樫光とは離れたし、中学校では当たり障りは少なく穏やかに過ごせたようだ。

リリーは中3になり、高校受験を控えると、学校も家庭も勉強一色に染まった。

家庭教師を買って出た俺は、おおいに張り切っていた。

年頃になると、昔のように抱き着いて来たり、膝の上にのってはくれなくなったけど、一緒にいられるだけで嬉しい。

リリーに恥じぬよう、中学も高校、大学と頑張った勉強は、今こうして役にたっている。

机に向かい、悩んでる様子のリリーの後ろから屈んでノートを覘き込み、


「リリー、ここにXを代入して……」


説明していると、リリーの肩口に顎があたってしまった。

リリーがビクッと震える。

後数㎝で頬が触れ合ってしまいそうな距離で、驚きながら耳まで真っ赤にして俺に振り返るリリー。

長い前髪の間から覘く、宝石のように輝く大きな瞳。

もう何年も正面から拝む事が出来なかった瞳は、初めて会った時と変わらず綺麗だ。

いや。

成長とともに、更に透徹した美しさに磨きがかかってる。

宝石を縁取る長い睫毛。

滑らかな肌に、すっとした鼻筋の下には、リップで保湿バッチリにぷっくり柔らかそうな唇。

至近距離で絡まる視線は、幼少期から変わらず、俺を求め、好きだと言っている。

これは、まずい。

リリーの赤面がうつったようで、顔が燃えるように熱い。

口を手で覆いながら、リリーの後ろ姿を眺めた。

胸のざわつきに意味を思慮し、あの瞳に映るのが自分だけであるようにと願いながら―――。


希望校を共学から女子高に変更させる事に成功し、可能な限りリリーのまわりから男は排除した。

そして黒川の小父さんに将来リリーと結婚したいと自分の気持ちを告げた。