どうも何処かで泣いてから帰宅しているようだった。

そんな瞳を真っ赤にして、隠すより泣きつかれた方がどんなに楽か。

外面的には、何もない日が続いた。

リリーは自分を本格的に不細工だと思い始めたらしく、人目を避けるように前髪を伸ばし、しまいには視力がいいのに眼鏡までかけはじめた。

何度可愛いと言っても、首を横に振るばかり。

リリーが小学5年になった日。

リリーの服が泥らしきもので汚れて帰ってくるのを目撃した。

相手がガキでも、もう許せなかった―――。

担任なんてあてにならない。

翌日には富樫光をとっ捕まえて、心底脅してやったらボロボロに泣き出した。

2度とリリーには近づかないと誓わせた。

煽った俺も悪い。

それでも好きな娘が振り向いてくれないからって、何年も嫌がらせをするのは道理は違うだろう。

俺の言いつけを守って、素直に育ったリリー。

そんないい()を傷つけていいばずがない!

俺の可愛い可愛いリリー。

こんなに大切に思っているのに……。


「いつか嫁にだすのかと思うと、今から憂鬱な気分になる」


リリーの話題を出すと、正也と辰巳が必ず生温かい瞳を向けてくる。


「その前に反抗期がありますよ、お父さん」

「リリーの辞書に反抗期なんて文字はない」

「出た、親馬鹿。てか、嫁に出すってより、颯吾が嫁にもらうの間違いじゃないの?」

「リリーが嫁に?それは…………可愛いお嫁さんになるだろうな」

「……今絶対花嫁衣裳の想像したよね?」

「絶対似合う」


胡乱気な2人を他所に、あれだけ人見知りをするリリーは、いつか嫁に行くのだろうか?

寧ろ、保護者として一生手元に置いてもいい!


「もしリリーが結婚しないなら、一生面倒みるのもいいな」

「「だからそれ、もう嫁だろ」」


そうか。

もし将来、このままリリーの心が癒されず結婚もせず独身でいるようであれば、俺が責任を持ってリリーを嫁にもらおう。

そうだ、小さい頃からリリー俺の嫁になるってずっと言ってたし、何の問題もない。

夜に一応「リリー大きくなったら俺のお嫁さんになる?」と本人に確認すると、頬を朱に染めて、コクンと頷いた。