駄目、はなれなきゃ。

解っているのに、心地良い体温を感じると、もっとと求めてしまい気持ちと身体が比例しない。

どうしても鼓動が高鳴る。


「リリー、心臓バクバクいってる」


揶揄うような口調に、顔に熱が帯びる。

肩を押し返して身をはなすと、悪戯な笑みがあった。


「そ、颯ちゃんがいきなり抱き着くからっ!」

「あはは。ごめん。リリーが可愛いから、ぎゅってしたくなったんだよ」


年頃になっても、颯ちゃんは昔のように手を繋いできたり、ハグをしてくる。

だけど、これはアレだ。

どんな娘でも我が子は可愛くて仕方ないっていう、世のお父さん方の眼差し。

だから、期待も勘違いもしちゃいけない。

口を引き結び固まる私とは反対に、颯ちゃんは穏やかな笑みを綻ばす。

宥めようとしたのかな。

不意に頭に手を伸ばしてきたから、瞳を瞠った。

今日、レストスペースでの出来事で、神経が過敏になっていたのかもしれない。

颯ちゃん相手に、ビクッと身体が跳ね、身を竦ませてしまった。

あ、と思った時には、時既に遅く、颯ちゃんは怪訝そうに眉を顰める。


「……今日、何かあった?」


私の心の内を探るかのように、細められた色素の薄い茶色い瞳に凝視される。

その視線から逃れるように、フルフルと首を横に振ると、


「リリー」


厳しい声が響いた。

誰にも心配はかけたくない。

仮令、それが颯ちゃんでも。

今日、発作は1人で乗り越えられた。

きっとこれからは、そうやって自分で対処していかなきゃいけないんだから、颯ちゃんに慰めてもらってはいけない。

甘えちゃいけない。


「リリー」


更に強く呼ばれ、居たたまれず俯いた。

それを拒絶と捉えたのか、諦めたような小さく嘆息する音が聞こえた。

改めて頭に手を添えられ、子供をあやすように優しく往復される。


「……今ここに、何事もなく無事にリリーがいる事が嬉しいよ」


ダメね。

深く追求はされなくて良かったけど、感情を隠せるようにならないと。

私を床におろすと、徐に大きな白い箱を差し出してきた。

こ、この箱は!


「改めて、お誕生日おめでとう。リリーが生れてきたこの日が、本当に嬉しい」

「あ……ありがとう……」