家路を急ぐ俺を、正也と辰巳が不憫そうな視線を向けてきたけど、まぁどうでもいい事だった。
それより、今日は白雪姫の絵本を読む約束をしているのだ。
早く帰らないと……。
リリーは小学校に上がってから、その愛くるしさから同級生の男の子に不快な言葉を投げられるようになったらしい。
プンプン怒ってる姿も非常に可愛らしい。
こんな可愛い娘を『ブス』だなんて、何処のガキだ。
リリーを好きなのは解るし(本当、可愛いもんな)、好意の裏返しだと解っているけど、その男を殴ってやりたい衝動に駆られる。
リリーは今1番白雪姫がお気に入りらしい。
一緒に出掛け時、それっぽい鏡を見つけてずーっと眺めていたから買ってあげたら、鏡に向かって「かがみのようせいさん、いますかー?」と話しかけていた。
……純粋すぎるだろう。
間違いなく世界で1番可愛いのはリリーに間違いない(親馬鹿)。
リリーは言う。
「おおきくなったら、そうちゃんのおよめさんになるー」
と。
ジンときた。
目頭が熱くなったのは言うまでもない。
世の父親の、娘が可愛くて仕方ない気持ちが、よーーーーーく解る。
そんな娘に、同級生の女子と一緒にいるところを目撃された時には、
「うわきだめー!」
と、何処で覚えた単語なのか、ポカポカ叩かれた。
全然痛くないけど、あまりの可愛さに笑ってしまった。
それにへそを曲げたリリーは、翌日部屋にきても俺に背中を向けてだんまり。
なかなかのヤキモチ焼きだ。
怒りを背中で語るなんて高度な技に、やっぱり笑いがこみ上げてきた。
ひたすら謝り倒して、機嫌をとって、やっと笑顔を見せてくれた時の話をしたら。
正也と辰巳に生温かい瞳を向けられたのは言うまでもない。
おまえ達だって、娘を持てばきっと解る。
リリーへの嫌がらせが、少しずつ深刻化してきていた。
リリーは毎日繰り返される心無い言葉の暴力に、心が折れはじめていた。
和歌ちゃんという友達がリリーを守ってくれては居るけど、リリーの心が閉ざされていくのを感じる。
大きく宝石のようだった瞳は長い前髪で遮られ、なかなか見る機会はなくなり。
それでも頑張って学校に行こうとする姿を、断腸の思いで見送っていた。