いつも厚かましいくらいくっついてきて、注意しても頬を紅潮させて笑顔しか見せないのに、なんて顔をしてるんだ。

思わず息を飲んだ、その時。


「颯吾ー、小母さんに言って勝手に上がらせてもらったぞ」


突然、ノックもなしにドアが開かれた。

飛び込んできたのは、正也だった。

我に返り、遊ぶ約束を忘れた事を思い出す。

少しの沈黙の後、先に口を開いたのは正也だった。


「……悪い。そこまで思い詰めてたなんて気づかなかったよ……」

「だから違うって」

「隠さなくてもいいって。何があっても、俺は友達だからな」


親指を立てて犯罪だけは駄目だぞーと念を押す正也に、頭を抱えた。


夏休み最終日。

今日はいつもの3人で正也の家に集まって真面目に宿題を仕上げて居た。

日付も変わって、時計は深夜を指していた。

明日から、というか後数時間で登校しなくてはいかず、流石に家に帰る事にした俺は自転車に鍵をさしていると、思い出したかのように正也に呼び止められた。


「あの娘……。颯吾と一緒に居た女の子なんだけど……」


言い難そうな口ごもる様子に眉を顰める。

またロリコン扱いする気か。


「真っ黒な絵、描いてたよな?あれ、気になって親父に聞いてみたんだけどさ」


約束を忘れた俺の家に電撃訪問した時の事を話し出した。

正也のくせに、梨々子の絵をしっかり見ていたらしい。


「子供が精神不安定だったり、ストレスを抱えてる時、上手く伝えられない気持ちを色で描くらしいんだ。黒の量が多いほど、精神的に抱えてい心の闇が大きいらしい。だから……何も解らない子供だからって、無理強いするなよ」


至極真面目に言い放つ正也に、心底呆れ果てる。


「……おまえ、本気でいい加減にしろよ」


自転車をこぎながら、正也のセリフを反芻していた。

勿論、梨々子が抱えているかもしれない精神的不安定要素についてだ。

手足の痣にしても、大人に対する梨々子の言い訳しても、子供だから矛盾してる、なんて思えなかった。

激しい胸騒ぎを紛らわすように、自転車をこぐ足に力をこめた。

家の直前、スピードダウンさせて徐に自転車から降りた。

時間が時間だけに、人っ子1人居ない住宅街。