柵越しに、ビニールプールで水遊びをする園児の中に、見覚えのある姿があった。

後ろ姿だったけど、嫌な程毎日見ていたから名前が似てるからって姿までも見間違えるはずがない。


「太腿青くなってるね。どうしたの?」

「ほんとだー。りりちゃんのおはだあおー」


保育士と友達の園児に指摘されて、梨々子はもじもじ口ごもっていた。

「……きのう、ねてたらベッドからおちちゃったの……」

「それは痛かったね~。空飛ぶ夢でも見てたのかな?」

「え~。おれもそらとびたーい」

「わたしもー」

「腕も青くなってるね。夢でお空飛んでもいいけど、ベッドから落ちないように気を付けてね」


お薬塗ろうか、と保育士と屋内に引っ込んでいく後ろ姿を見えなくなるまで眺めていた。

夢で空を飛ぶ夢を見るなんて、随分な浮かれようだ。

ふんと鼻を鳴らすと、辰巳と正也が胡乱気な顔で俺を見てきた。


「颯吾。ゲーセンやめて、これからプールか海行くか?」

「は?」

「あれだ……人の性癖に口出しする気はないけどな」

「はぁ?」


正也がトントンと肩を叩き、首に腕を回してきた。

そうそう、と辰巳が続ける。


「あれは後10年以上待たないと、見頃にならないぜ?」

「……おまえら1回死んで来い」


俺は俺で淡々とし毎日を過ごしていた。

ちょっと手持ちがない時は、ちょっと派手な女に「お姉さん綺麗ですね」と辰巳が声を掛ける。

自分達の容姿が女ウケがいいのも解ってたし、『可愛い年下の男の子』を演じれば、ご飯やその日眠る場所だって提供してもらえた。

祖母がよく歌ってた曲で、神様に与えられた美貌を使わなければ罪だ、的一文があった気がする。

居場所を確保する為に、生まれ持った容姿を大いに活用して問われる謂れはないだろう。

お盆が近づくと、皆帰省する。

家に居ると晴太が寄ってきて怠いし、近くの祖父母に入り浸っていた。

そんな時、正也から連絡がきて遊ぶ事になった俺は、一旦着替えに帰宅する事にした。

玄関には見慣れない靴と小さな赤い靴があった。

リビングルームに行くと、案の定、梨々子が居た。

俺を見るなり頬を紅潮させて、駆け寄ってきた。

纏わりつかれて歩き辛い。