静かにしてろと言えば、素直におとなしくしく、1人で何かをしている。

時々瞳が合えば頬を紅潮させて、にこり笑う。

何が楽しいのか知らないけど、邪魔さえされなければ、まぁいい。


「颯吾、最近全然遊びに行かねーのな」


学校で、辰巳に言われた。

最近ちょっと飽きただけ、そうこたえた。

別に、梨々子は関係ない。

学校が終わって家に帰って、俺を待つ梨々子を連れて部屋で自由に過ごす。

梨々子は相変わらず絵を描いたり絵本を読んだり。

今まで俺を腫れ物に触れるような扱いをしていた母親も、梨々子に飲み物やおやつを持って俺の部屋を訪れるようになった。

その母親の後ろを弟の晴太もついきて、母親が去った後も残って梨々子と一緒に遊んだり俺のゲームを隣に座ってただ見ている。

梨々子も晴太も、俺と瞳が合うとにっこり笑う。

俺はやっぱりげなりとする。

何時から俺の部屋は保育園化した?

突然、梨々子の姿が見えない日が続いた。

隣家には人の気配がある。

何かが心に引っかかった気がしたけど、どうでもいい。

寧ろ、やっと飽きてくれたのかと胸を撫で下ろした。

でも、気が向いたから母親に梨々子の事を訊ねてみた。

俺から話しかけたのは、記憶にある限りきっと初めてで、母親も一瞬瞠目していた。

俺の口は、食べる為のものだけじゃないんだぞ。

曰く、どうやら梨々子の母親の仕事が忙しいらしく、今まで時間調整していたのを通常勤務に戻したらしい。

代わりにベビーシッターを雇って、梨々子の面倒を頼む事にしたらしい。

梨々子も梨々子で、あれだけ毎日入り浸っていたのに全く顔を見せなくなった。

ベビーシッターという新たな遊び相手にご執心なんだろう。

夜。

自分の部屋から隣の家を見ると、手入れを怠った庭に雑草が所狭しと生い茂っていた。

そこに埋もれるように、しまい忘れられた小父さんのバットが横たわっている。

人も物も、忘れられ置き去られる。

父親が、俺の産みの母親をすっかり過去のものとし、新しい家族と人生を歩むように―――。

放課後時間を持て余すようになった俺は、前みたいに帰らない日を繰り返すようになった。


「りりちゃん」


夏休み。

辰巳と正也と3人で、ゲームセンターへ向かう途中の保育園で、耳に馴染んだ響きを耳にして足がとまった。