同じ空間に居て、俺だけが異質だった―――。
俺が5歳の時、弟が産まれた。
両親は新しい家族に夢中で、俺は1人になったような気がした。
それでも、特別に気にならなかった。
弟中心の生活でも、特に困ることはなかったし、あまり関心を持たれない分、俺は自由だった。
(産みの)母方の祖父母は、家が近い事もあり、最初のうちはよくそこに出掛けていた。
そこに行くと出掛ければ夜遅く帰ろうと、朝帰りしようと、何も問われなかった。
小学校高学年になると、それに更に拍車がかかった。
相変わらず、家の中は弟中心で、俺には無関心で、学校が終わった後は家に帰らず友達や他人と過ごす時間が増えた。
両親は学校にさえ行ってれば何も口出ししなかったし、家族と名のつく中に居るより他人といる方が気が楽だったから、何も言わせない為にも学校にだけはきちんと通った。
よく一緒につるむ中には、小学校からの同級生の辰巳と正也が居て、今でも交友が続いてるんだから、もう腐れ縁としか言いようがないだろう。
そんな日々を当たり前のように繰り返していた、ある日。
その日は珍しく誰とも都合があわず、仕方なく家に帰った。
ふと、玄関に並ぶ靴の量が多いことに気付く。
大人の靴が二足。
俺の掌におさまってしまうんじゃないかってくらい小さい赤いが一足。
来客中かと、訝し気に框に足をかけた時、タイミング悪くたまたまトイレに出てきた父親と出くわした。
まっすぐ自分の部屋に向かうつもりだったのに、瞳が合った瞬間、内心舌打ちをした。
案の定、客人の居るリビングルームに連れていかれ、長男だと紹介された。
頭の隅で、「あぁ……カテゴライズ一応俺が長男か」とぼんやり思った。
両親の向かい側に座るのは、隣に越してきたという黒川という一家だった。
黒川一家は、父親と母親3歳になる娘1人の3人家族で、なんでも、父親同士が同級生で同じ野球部に所属していたらしい事が話の内容から読み取れた。
偶然隣に越して来たのだというので、昔話に花が咲いていた。
簡単な挨拶を交わしながら、ちらっと父親の隣に座る母親とその膝にのる弟を見ると、弟は『誰だろう?』と言わんばかりに、きょとんとした瞳で俺をみていた。