言葉の通り、その時間だけは颯ちゃんの心を蝕むものから、開放されていたのなら、私の不幸はただの不幸ではなく、ちゃんと意味を持つ。

自分の心の傷すら愛おしいものになる。


「だから、今までもこれからも……ずっと、ずーっと颯ちゃんの傍に居る。嬉しい事も悲しい事も、一緒に分かち合っていきたい。途中でもう嫌だなんて言われても、絶対離れてやらないんだからっ」

「あはは。今更離れられても困るんだけどね。俺もリリーと同じだな。リリーを手に入れる為に、あの日々があったんだと思えば大した痛みじゃない。……これから先、きっと幸せな事しかないよ」

「……颯ちゃん」


同じ気持ちになれるのが嬉しい。

2人見つめあっていると、


「すみませーん。一応俺まだ居るから、2人の世界つくらないで。あ〜あ。結局、梨々子は幾つになっても『颯ちゃん颯ちゃん』だな」


呆れた口調で、光が頭を掻いた。

そうなんだ。

私はこれからもずっと『颯ちゃん』を求め続ける。

最後に光は、


「本当に、沢山傷つけてすみませんでした!」


と改めて深く深く頭を下げて謝罪してくれた。

別れ際、お互い良い親になろうって言ったら、ぽかんとしていたけど、私の手を添えたお腹を見て感づいたらしく、瞠目した。

恥ずかしくて颯ちゃんを見上げると、颯ちゃんは優しく微笑んだ。

それを見た光は、何故か手で顔を覆って肩を落としていた。

光と別れてから、私達は颯ちゃんのマンションに帰り。

昔みたいに、抱き合うよう眠った。

もう怖くない、怖くない。

颯ちゃんは、悪い魔女も悪魔も追い払う、私の強い王子様。

悪い奴をやっつけて、いつも助け出してくれるの。

小さい悪魔は居なくなった。

悪い魔女は……あれ?

なんだっけ?

何か引っかかったけど、颯ちゃんの体温が心地良くて、もう眠い……。


「颯ちゃん……おやすみなさい……」