正直、光と話したいことなんて何もないけど、追ってきてまで言いたいことって……。

颯ちゃんの後ろから顔を覗かせると、ほっとした表情を浮かべられた。


「俺、梨々子のことブスだなんて思ったこと、一度もなかった。入学式で隣の席になって、笑顔で挨拶された時に、……一目惚れだったんだと思う。それからずっと好きだったんだ」


光が、私を好き……?

思いもよらない発言に、思考が停止した。


「……そんな……。あり得ない」


頭を振って否定する。

だって、私はずっとブスって言われて苦しんできた。

色々嫌がらせされて、人前で顔を晒すのが怖くなった。

それなのに……そのブスって言われ続けた理由が好きだったからなんて。

―――信じられない。


「梨々子はことあるごとに『颯ちゃん、颯ちゃん』て言うから面白くなかったんだ。ムカついて、俺の方見てほしくて……。だから毎日『ブス』て言い続けて。最初のうちは怒って、いろいろ反応してくれるのが嬉しかったんだ」

「嬉しかったって……何よそれ。私はずっと苦しかったのに。ブスって言われて虐められて……。それが……色々反応してくれて嬉しいなんてっ。私を何だと思ってるの!」


沸々と怒りが湧き上がってくる。

光は、私の苦しみを喜んでた。

小学校で、光が辛辣な言葉を浴びせて楽しんでるんだとは思ってたけど、こうもはっきり言いきられると強い憤懣しか生まれてこない。


「ごめん……。あの頃の俺は、そうすることでしか気持ちを表せなかったんだ。だけど、言えば言うほど。ちょっかいを出せば出すほど、梨々子が口数が少なくなって、その瞳に何も映さなくなってくのが解って。だから余計反応が欲しくて、無意識に行動が過激になっていった。……気が付いた時には、笑顔が可愛い梨々子が顔を隠して、俯いて、脅えてた。もう……どうする事も出来なくて」


勝手な言い分に、口をグッと引き結ぶ。

光が、凄く憎かった。

私にとっては人生を左右する出来事だった。

毎日悲しくて泣いて。

颯ちゃんの胸に縋り付いて。

颯ちゃんは時間がある時は、学校に送迎までしてくれた。

学校に行けば和歌ちゃんが傍にいて守ってくれて……。