『ブス』と言われ、大事にしていたヘアピンを取られた。

『ブス』と言われ、口を紡ぐようになったら、余計『ブス』と絡まれるようになった。


どうして?

私が何をしたっていうの?


「ブスが泣くとよけいブスになるぞ!」


追い打ちをかける光の言葉に、涙が溢れ、零れ落ちた。

その時―――。

私からすり抜けた颯ちゃんが、光の胸元を引っ張りつり上げた。


「いい加減にしろ!」


周囲の喧騒が無音と化し、滾るような怒りを滲ませた颯ちゃんが、そこにいた。

瞳を細め、背筋がぞっとするような低い声を響かせる。


「いつまでもガキの延長線じゃねーんだよ。二十歳になっても、おまえは好きな女を傷つける事でしか気を引けないのか。梨々子は俺のもんだ。気安く人のものにちょっかい出してんじゃねーよ」


小さい頃から颯ちゃんを知ってるつもりで居たけど、いつも紳士的で柔和な颯ちゃんが、言葉を乱す姿を初めて瞳にした。

香織さんが乗り込んできた時にだって、こんな感情を露わにした様子はなかったのに……。

だけど、そんな颯ちゃんを見たからって嫌な気分のものではなくて。

勿論驚きはしたけど、内容にドキドキしたというか。

だって……。

―――梨々子は俺のもの。

反芻しては、胸が熱く鼓動をたてる。

私は、颯ちゃんの一部だってのが認識が嬉しい。


「……光、今のは全部あんたが悪い。謝りなさい」


颯ちゃんの凶器のような眼光を受け、凍り付き固まる光に、再度河原さんが謝罪を促した。

その声にはっと我に返った光は、2人の厳しい視線に息を飲んだのが解った。

此処は歓楽街。

アルコールで気分が浮ついていても、人通りがそれなりにある道だ。

私達の不穏な空気に足を止めて様子を窺う人もいる。

それに颯ちゃんはこの美貌に加えてネームバリューもある人。

既に何人か颯ちゃんに気付いた人もいるらしく、颯ちゃんを呼ぶ声が耳を打つ。

騒ぎになったら大変……。


「颯ちゃん……」


ワイシャツを引っ張ると、私の不安が通じたのか光から手を放した。

私の身体を引き寄せると、頬を伝う涙を掬い上げ、ギュッと抱きしめる。