異常なほど身体を震わせ、その場に崩れ落ちそうなのを堪える。
―――この口の悪さ、間違いないっ。
冷や汗も出てきて、眩暈を覚えながら必死に颯ちゃんにしがみついた。
まさか、あの富樫光が河原さんの弟だなんて―――!
『黒川梨々子ー!おまえ、なんでそんなブスなんだ??』
『おいブス。俺が呼んでるんだから、コッチ見ろよ』
『あははは!泥だらけできったねーな。皆見ろよ、ブスがもっとブスになったぞっ。汚ブスーっ』
『おまえ、本当ブスだよな』
耳の奥に木霊する子供の声。
富樫光が私を揶揄して吐いた言葉達。
私が、人前で顔を出せなくなったトラウマを植え付けた元凶が、この富樫光だ。
「梨々子……どうしたの?」
私の行動に、河原さんが訝しんだ。
颯ちゃんも、富樫光の名前に憶えがあったから無理しなくて良いって言ってくれたんだね。
私を背に隠し、縋りつく私に後ろ向きに手を添えてくれる。
颯ちゃんの体温が、唯一私の意識を繋ぎとめてくれていた。
なんで?
どうして光が居るの??
私の天敵が、どうして河原さんの弟になってるの?
やだやだっ。
私の大嫌いなヤツ、一生会いたくなかったのに!
「……申し訳ないけど、妻の体調が優れないみたいなので失礼しても?」
「あの……弟が失礼な事を、本当すみません。梨々子も……嫌な思いさせてごめんね?」
申し訳なさそうに紡ぐ河原さんに、引き結んだ唇は震えるばかりで声を出せなかった。
脳を過るの、颯ちゃんを求めて泣く私の髪を引っ張られたり、泥団子を投げつけられた記憶。
そんな身体を真綿に包むように優しく抱きしめてくれる颯ちゃんの腕。
「妻って……おまえら結婚したのかよ!?なんだよ……おまえらは昔からいつもそうだったよ。事あるごとに『そうちゃんそうちゃん』って泣きやがって。おまえみたいなブスの相手をしてくれるのは、颯吾しか居なかったもんなっ!」
憮然と吐き捨てセリフに思考が停止した。
『ブス』の言葉が私の意識は過去に引きずり込む。
『ブス』と言われ、髪を引っ張られて頭が痛かった。
『ブス』と言われ、周りの男の子と一緒に、お気に入りの服に泥団子を投げつけられた。