河原さんは颯ちゃんを見やると、軽く挨拶交わしていた。
「もう少し早くきたら一緒出来たのに、残念。あ、これ弟の光」
隣に立つ若い男の子を紹介してくれた。
挨拶しなさいと仲良さ気に肘を入れている姿が、なんとも微笑ましい光景だ。
私にも兄弟がいたらこんな感じかな、と想像しつつ、瞳があった弟さんに挨拶をした。
「は、初めましてっ。河原さんに、いつもお世話になってます。私、篠田……」
「……りり、こ?」
「え……?」
「……おまえ、黒川梨々子だよな!?」
下げようとした頭を上げると、大きく見開いた瞳に射抜かれた。
どうして河原さんの弟さんが私を知ってるの?
訝し気な私に、弟さんが自分を指さす。
「俺だよ、俺!河原……じゃなくて小学ん時一緒だった富樫光!」
富樫光?
河原さんの弟なのに、富樫?
「何?2人とも知り合いなの?」
「小学ん時の同級生なんだ。久しぶりだな~、元気か?……あ、小学校卒業した時、親の再婚で名字変わったんだよ。今は河原なんだけど、前は富樫。富樫光」
私が混乱しているのが解ったらしく、すぐ名字の違いについて説明してくれた。
小学校の時の事は、あまり掘り返したくない、というか、脳が拒絶する部分があって心の中にもやっとした感情が湧いて気分が悪くなる。
「リリー。無理しなくていい」
私が神経を尖らせたのが解ったのか、颯ちゃんが頬に指先を滑らせ小声で宥める。
その颯ちゃんの仕草に、その富樫光が反応した。
「おまえ、篠田颯吾だろ!?いつも梨々子と一緒に居たロリコン!」
「ちょっ、ちょっと!何言ってんのよ!!」
「なんだよ……本当の事言っただけなのに……」
「謝りなさい!弟が失礼な事を、すみません!」
「……すみませんでしたー」
河原さんに睨まれ、弟さんの頭を無理矢理さげさせ一緒に謝罪する。
颯ちゃんが、ロリ……ロリコン!?
思い返したくないけど、颯ちゃんを酷い言われように無視は出来ない。
蓋をして暗闇に沈む記憶を小学校が一緒の、トガシヒカル……。
とがし、ひかる……!?
その名前に、一気に血の気が引いて、慌てて颯ちゃんの背中に身を隠した。