こくりと喉が鳴った。
「雑誌で颯吾が結婚の挨拶をしたと読んだ時、やっと念願が叶うんだと、それまで溜まっていた気持ちが一気に霧散したんだろう。だから、邪魔なものはすべて排除しようと、梨々子ちゃんに接触を図った。妻になるんだから、その権利が自分にはあると、強硬手段も厭わなかったらしい。実際、婚約者でもなんでもなく、自分の父親の謀略であるいと知って相当ショックをうけたみたいだけど」
3人の間に重い空気が落ちた。
何故小林さんがこれらを知っているのか。
それは、水戸さんに連れられていった高坂病院のパーティで会った、高坂千尋さんと香織さんが仲がいいんだとか。
千尋さんに零した言葉が、千尋さんの兄の正也さんに伝わり、正也さんから小林さんに話が流れて来たらしい。
「かと言ってそんな事、颯吾にしたら寝耳に水だし、何より大事な梨々子ちゃんが傷つけられた事実は変わらないんだから、香織を許さないだろうな」
その呟きに、和歌ちゃんが反応した。
「傷つけられたって……どういう事?」
うっ。
小林さん、此処でそれを言うのはちょっと……。
和歌ちゃんが怒ると思って、さっき話した経緯から引っ叩かれた事や馬乗りされた事を省いんだよね。
低い声で指摘され、頬を引き攣らせる。
思わず小林さんを恨みがましく見上げると、外国人のように両手を左右に広げられた。
可愛らしく舌をだして見せられても、全然笑えない。
詰め寄る和歌ちゃんに、言葉を濁していると、個室の壁がリズミカルにノックされた。
「女性客のテーブルでお喋りなんて、このお店は暇なのかな?」
颯ちゃんが微笑みながら腕を組んでたっていた。
さっき入店した時は満席で、颯ちゃんの予約がなかったら席につくのに時間がかかりそうだったのに。
話し込んでいるうちに、もしかして空いたのかな?
小首を傾げると、小林さんが、
「そんな怖い顔するなよ」
と眉を顰めた。
颯ちゃんは笑ってるのに、怖い顔なの?
意味が解らず颯ちゃんの顔を見直して、また逆に首を傾げる。
肩を揺らしながら、和歌ちゃんが耐えかねたように訳してくれた。