2人の出会いとか、付き合いの長さとか、家での颯ちゃんの様子とか聞かれ。

愛想笑いで頬の筋肉がぴくぴくする……。

だけど、おめでたムードだけでなく、それなりに心ない言葉も頂戴してしまい、少し凹んでしまう。

社食をさっさと退散して、3階のレストスペースに移動中も、男性社員には「梨々子ちゃーん」と呼ばれて振り返ると、「可愛い~」と冷やかされ、思わず顔を赤らめるとますます揶揄われたり。


「秋野さん、この前まで私に付き合って~て言ってくれてたのにひどぉ~い」


河原さんが私を隠すように前に立ち、甘えた口調で拗ねて見せた。

その後ろで、エレベーターを指さし『先にのって行け』と合図をしてくれて、早苗さん達とその場を脱した。

少しすると、河原さんも追い付いて、自販で飲み物を買って隣に座る。

お礼を言うと、トップをふんわりさせた柔らかなフェミニンボブを耳に掛けながら微笑んだ。

河原さんには、本当助けられてばかり。

仕事中は勿論、お昼だってなかなか落ち着いて喋る時間がなく、ここにきてやっと心につっかえていたものを吐き出せる。


「河原さん。颯ちゃ……颯吾さんに電話してくれたって聞いて……。それに色々庇ってもらって、あの……ありがとうございましたっ」

「ああ、あれね……。前、水戸さんが名刺交換したって聞いてたから、ちょうど水戸さん居たから見せてもらったのよ。間に合ってよかったわ」

「とか言いつつ、本当は、水戸さんの胸倉掴んで『篠田颯吾の名刺出しなさい!』て叫んで出させたんだよ。いつも猫被りの可愛い彩名の豹変っぷりに、水戸さんもたじたじで、もう可笑しかった〜」


含み笑いをしながら、横から出て来た田所さんに、河原さんが「そんな事覚えてませ〜ん」と、とぼけた見せた。

それに構わず、あの日私が香織さんと対峙していた時、オフィス内で起きた事を話し聞かせてくれる。


「名刺を取り上げると、凄い勢いで電話して『あんたの婚約者が、梨々子のところに乗り込んで来たのよ。自分の女の管理くらいちゃんとしなさいよ!』で凄い剣幕で怒鳴ったんだから。もう男達は全員ドン引き」


可笑しそうに変わって指で眦をつり上げてみせた。