テーブルから回収した空き缶をキッチンのワークトップに置くと、手元に影が落ちた。
影の本元を辿り見上げると、颯ちゃんが残りの空いた缶を持ってきてくれていた。
瞳を滲ます私を見るなり、眦に先にたまる滴を親指で掬い取る。
「……ここはいいから、先にお風呂入っておいで」
「でも……」
「皆明日休みでまだ飲むみたいだから、付き合ってたら遅くなる」
耳元で囁かれ、顔を赤らめる私に、颯ちゃんは喉を鳴らす。
頬を膨らませると、談笑する両親達の声が一際大きくなった。
初孫だと喜んでくれる姿に、颯ちゃんもふんわり笑みを綻ばせる。
その微笑みが凄く綺麗で、つい見惚れてしまう。
私……この人と結婚するんだ。
なんて、感慨深く浸っていると、颯ちゃんが私の視線に気づいた。
「一緒に入る?」
「え?」
「うちのマンションでは1度一緒に入ったじゃん?お、風、呂」
お互い裸なんて見慣れてるし今更だよね?と付け足され、今にも心臓が胸を突き破ってでてきそうにどきどきする。
「えっち!ひ、1人で入る!」
「残念。じゃまた今度だね」
冷蔵庫から缶ビールと酎ハイを受け取りだし、くくっと悪戯に口端を上げる。
不意に颯ちゃんの細身なのに以外と逞しい身体が瞼裏に揺らいで顔が熱くなった。
恥ずかしくて逃げるように脱衣所に駆け込み、着衣を脱ぎ捨てると浴室に逃げ込んだ。
浴槽に凭れ、身体を滑らせブクブク泡立て水面に沈めていく。
情事の様子を思い出すなんて、えっちなのは私の方かもしれない。
確かに、マンションで1度お風呂に一緒に入ったけど、それは、私のお風呂中に颯ちゃんが無理矢理入ってきたんじゃない!
メイク落ちが気になって気になって仕方なかった。
りことして入った時は勿論恥ずかしかったけど、すべての誤解が解け、蟠りがなくなった今は、完全に無防備な感じがして、尋常ではないほど恥ずかしい。
小さい時も一緒に入ったのに、おかしいな……。
お風呂から上がった後、ルームウェアに着替えた私は自室でドライヤーをかけていた。
ノック音が響いて、颯ちゃんが入ってきた。
私からドライヤーを引き取ると、手ずから髪を乾かしてくれる。
両親達はまだ飲んでいるらしい。
慣れた手つきでブラッシングもされ、至れり尽くせりな私。