お母さんは明らかにほっとしたようで、頬に流れたものをエプロンで拭った。

お父さんもソファの背を凭れた嘆息する。


「小父さん、小母さん。梨々子さんと結婚させて下さい。今まで以上に大切にします。2度と危険な目にあわせません。梨々子さんも子供も、私が一生守ります。どうかお願いします」


土下座なんて、傍からみれば一見滑稽にとられがちだけど、必死な様は真摯な想いが伝わってくる。

言葉もずっと崩すことなく「俺」じゃなく「私」をいっかんしてくれてて、それだけ謝罪の気持ちも強ければ、私への想いも真剣なんだ。

私、颯ちゃんにちゃんと愛されてる――――。

我慢していた涙は堰をきって溢れだし、脚に零れ大きなシミをつくっていく。


「私も……颯ちゃんと、結婚させて下さい。颯ちゃんがいなきゃ……私、生きて行けません……」


床についた手に額をつけ、手の甲を濡らす。

私はもう、颯ちゃんなしでは生きて行けない。

それは、颯ちゃんと離れてる期間に十分すぎる程身をもって経験した。

本当、毎日辛くて苦しくて、息の仕方だって解らなかった。

これが一生続くのかと思うと、紅蓮の炎で焼かれる地獄に落ちた気分だった。

愛する人を忘れられるはずもなく、生きながらの屍のような日々。

もう離れたくない。

もう2度と、あんな想いをしたくない。

愛する颯ちゃんと、ずっと一緒に居たい。

どうか……許して。


「もういい、顔をあげなさい」


言われた通り顔をあげると、お父さんとお母さんがちょっと憂いを含んだ笑みを浮かべていた。


「梨々子、おめでとう」

「梨々子を宜しくお願いします」


其々祝福の言葉に、涙は熱を増した。


「「ありがとうございます」」


お礼を言うや否や、緊張の糸が解れて、颯ちゃんの首に腕をまわし声を上げて泣いた。

恐かった。

全てを1人で背負おうとする颯ちゃん。

そんな颯ちゃんを問責する両親。

私は、皆に守られてばかりで、何も出来ない自分が悔しかった。

抱き着く私に、颯ちゃんは優しく受け止める。

首に顔を埋めてると、宥めるように頭を撫でた。


「リリー頑張ったね。ありがとう」