颯ちゃんは宮川社長に結婚するから、今後香織さんにも私への接近を禁止するよう書面で求めたらしい。

しかし結果は、香織さんが私の会社に乗り込んできて厄災を撒き散らし、私に危害を加えた。

颯ちゃんは加波の社員から電話をもらい、すぐさま駆けつけたと言う。

河原さんに言ってた「電話ありがとう」てこの事だったんだ。

河原さん、私の身代わりになろうとしたり、颯ちゃんに助けを求めたり、色々動いてくれてたんだと思うと、涙腺が潤んだ。


「でも、また梨々子に接触をはかって何にかされるんじゃ……」


お母さんが表情を曇らせ、不安の色を濃くする。

私も思い出して身震いをし、お腹に手を添えた。

香織さん、私の妊娠に気づいたようだったし……。

今度は赤ちゃんが狙われたらどうしよう。


「可能性は否めませんが……それどころではなくなるかと思います」

「そう、なの?」

「大丈夫。リリーは俺が守るから安心して」


腰に置いていた手を頭に移動させ、私の頭を包み込むように肩口に抱き込んだ。

不思議。

颯ちゃんに言われると、本当に大丈夫な気になってくる。

私が落ち着くと、颯ちゃんは改めて床に両手をつき上体を伏せた。


「私の力が及ばず、梨々子さんを危険に曝し、申し訳ありませんでした」

「颯吾君……頭をあげてくれ」

「いいえ、最後にもう1つお詫びしなくてはいけません」


お詫びの言葉と、颯ちゃんが更に低く、床に額を押し付ける姿に、両親は戸惑いながら顔が引き締めた。


「梨々子さんは、私の子供を妊娠してます。順番が逆になってしまい、本当に申し訳ありません」


お父さんは瞠目し口をぽかんとさせた。

お母さんは、驚いた様子もなく、落ち着いていた。


「今、悪阻があるみたいだけど、2、3カ月くらい?」

「お母さん、気づいて……?」

「私だって貴女を産んでるのよ?一連の不調をみてれば解るわ。それで、何カ月?」

「2カ月……」

「大事にしなきゃいけない時期ね。体調はどうなの?」


瞳を細めて緩い弧を描き、優しく笑む。


「悪阻はあるけど……大丈夫。さっき颯ちゃんに病院に連れて行ってもらったけど、赤ちゃんも順調だったよ?」

「そう……。良かった……」