想いを通わせる前は、一緒にいても心はざらざら角立ち、黒い渦を巻いていた。

それが今は、好きな人に望まれ、こんなにも幸せで満たされる。

どんな窮地に至っても、颯ちゃんが一緒なら怖くない。

颯ちゃんも、同じように感じてくれたら……嬉しいな。

お母さんもお父さんに呼ばれて、ソファに着席した。

それを見届けると、お父さんが柔和に切り出した。


「さて……。まずは、梨々子」

「は、はいっ」

「暫く見ないうちに、すっかり綺麗になったね」

「……ありがとう、お父さん……」


温厚な性格を表すように、穏やかな微笑みだった。

「それから颯吾君」

「はい」

「今日は、この前の話の続きかと思ったけど……違ったかな?」

「……いいえ。それもあるんですが……すみません。私が至らないばかりに、色々ご迷惑をおかけしてしまって」


瞳を伏せ、俯く颯ちゃん。


「まぁ、そう堅苦しいのは無しにしよう」

「しかし……」

「いいんだ。颯吾君の事は昔から信頼している。何があっても責めはしない。また、私達にその資格もないだろう……。颯吾君の噂は聞き及んでいるし、この梨々子の状態を見るに大凡察しはつく。が、梨々子は私達の大事な1人娘だ。予想だけでなく、娘に起こった事実を知りたい」


言葉はやさしいけど、お父さんの瞳は剣呑の色を秘めていた。

いつも温厚でお母さんに甘えて見えるお父さんも、やはり1人の父親なのだと思った。

仕事で転勤が多く、会うのは年に数度。

時々スマホにメッセージや電話をくれる程度だった。

お母さんも夜勤のある仕事ですれ違いだったし、私が颯ちゃんに偏ってたから、両親は私に、それほど関心を持ってないんだと思ってた。

高校受験も卒業後の進路も、相談するのは両親ではなく颯ちゃんだった。

両親は好きだ。

それでも、私の世界は颯ちゃんだけだった。

その颯ちゃんが責められのだけは耐え難かった。

私の前のめりになる身体を、颯ちゃんが腰をしっかり掴んで制させる。

お父さんもお母さんにの肩を抱き、話を聞くよう促す。

颯ちゃんに「続きを」と合図をするような眼差しを向け、それに颯ちゃんは頷いた。


「はじめに、世間で囁かれている宮川コーポレーションの娘さんとの婚約話は、事実無根です。私が愛してる女性は、今も昔も黒川梨々子さんだけです」


❝女性❞のフレーズに胸が小さく跳ねた。

子供でもない、家族でもない。

ただの1人の女性として扱われてるのが嬉しい。


「それを前提に、事の発端は2年前に遡ります……」


颯ちゃんが私にも聞かせるようにこちらを向いたので、口を引き結んで力強く頷いた。

2年前、香織さんの父親である宮川コーポレーションの宮川社長から、業務提携の打診があった。

宮川コーポレーションは、主に建築事業と不動事業を展開している企業で、香織さんのお父さんが後を継いだあたりから自社都合の形態になり、次第に取引先からも嫌煙され始め、年々経営が悪化の一途を辿っているらしい。