「颯ちゃんの事ずっと信頼してたのよ。それなのに、どうして梨々子をこんな目に合わせるの!?」
「お母さん、颯ちゃんは何も……」
言いかけると、颯ちゃんは小さく首を横に振り「それ以上言うな」と訴えて来た。
そんな……。
だってこのままじゃあ颯ちゃんが一方的に悪くなるのに……。
結婚の挨拶をするだけだったのに、どうしてこうなるの?
背筋を伸ばし覚悟を秘めた瞳は凛として、まるでこうなるのを事前に予測していたようだった。
だから……さっき部屋で休んでていいって、言ったの?
どうして……。
「どうして、俺を信じろって、何でも1人で背負おうとするの?私じゃ役不足かもしれないけど、それでも、颯ちゃんが背負うものを少しでも分けて欲しい。何が起きても一緒に乗り越えていきたいよ。これからは、颯ちゃんの傍に居ても恥ずかしくない人になるから、いつまでも庇護対象にしないで」
泣きたい気持ちをグッと堪える。
颯ちゃんが虚をつかれたように瞠目して、色素の薄い茶色の瞳は弧を描いた。
私の頬を手の甲で撫でる。
「リリーごめんね。決して君をぞんざいに扱ってるつもりはないんだ。ただ解って欲しい。リリーにはリリーの、俺には俺の責任がある。今回件は、俺が噂を軽侮していた結果、君が傷つけられたのだから、俺には君のご両親に言明責任がある」
「でも……」
きっと私が自分を偽らず、はじめからリリーだと公言していたら、ややこしくならなかったはず。
自分にもっと自信がもてたら、香織さんから逃げたりしなかった。
颯ちゃんのマンションで対峙した時、あの場から逃げ出さなければ、私達はこんな遠回りもしなかったかもしれない。
「そうだな……。じゃあ、俺が説明する間、隣に居てくれる?傍にいてくれるだけで心強いから」
おいでとばかりに片手を横に広げられる。
そんなんでいいんだろうか。
でも、それで颯ちゃんの精神的な支えになるなら……。
空けられたスペースに身を寄せると、すかさず優しい体温に腰を抱かれた。
ここが私の場所だと言われてるようで、胸が熱くなる。
私がどんなに逃げても離れても。
颯ちゃんは私を見捨てなかった。
追って、捕まえて、私でいいって言ってくれた。