颯ちゃんは喉奥をくつくつ鳴らし、手を繋いで歩き出す。
「今頃、慌てて父さんに連絡してるだろうな」
私の緊張なんかどこ吹く風で、可笑しそうに笑う。
颯ちゃんが笑ってる間に、家が隣だから、あっと言う間に我が家の前に到着。
私は気持ちを整える暇もなく、もう口から心臓が飛び出そう。
「妊娠の話も俺がするから。リリーは黙って、全部俺に任せて」
「でも……」
言いかけると、颯ちゃんは周りを見回し、また触れるだけのキスをしてきた。
「こ、こんなところで!」と叫びたいのに、言葉は声にならず、口をぱくぱくさせるだけだった。
幸い人通りはなく、ほっとする。
小さい頃から見知った近所の人が見たら、どう思うか気が気でない。
キスされるのは、嫌ではない。
寧ろ、颯ちゃんの「好き」が詰まっているよう恥ずかしいけど喜ぶ自分がいる。
恨めしく思いながら、玄関ドアを開くと、お父さんの靴とお母さんの靴が横に寄せられてあった。
それを確認し、
「た……だい、ま~」
弱々しく言うと、遠くから「おかえり~」と返ってきた。
「お邪魔します」
颯ちゃんの声がのせられると、瞳を丸くしたお母さんがリビングから顔をのぞかせた。
「あら、仲直りしたのね。早くあがって」
驚きながらもすぐ引っ込み、お父さんに颯ちゃんが来た事を告げていた。
いよいよだ。
ゴクリと生唾を飲む。
「リリー。本当は、色々あったから早く休ませてあげたいんだけど……悪いけど、もう少し付き合って。でも、しんどかったら部屋で休んでいいから」
「だ……大丈夫だよ、挨拶だけだし自分たちの事でしょ?お父さんとお母さん、吃驚するかな?」
「するだろうね。……無理しないで」
「うん、ありがとう」
颯ちゃんのお嫁さんになる。
その挨拶をするだけで、緊張はするけど気負いなんてない。
颯ちゃんが先に進み、私も暴れる心臓とともに後ろをついて行く。
颯ちゃんはリビングに入る一歩手前で立ち止まり、繋いだ手を自分の腰に数度あてて私に微笑む。
「行くよ?」の仕草に、じんわり温かいものが胸に広がる。