緊張の面持ちで階段を下りて玄関で靴を履いていると、意を決したように小母さんが顔を真っ赤にして出てきた。

さっき現場を見られたのもあり、非常に……気まずい。

素顔を晒す私に一瞬破顔したけど、表情を引き締めて隣の颯ちゃんに正対した。


「そ、颯ちゃん。貴方も大人だから細かい事は言わないわっ。だ、だ、だけど、りりちゃんは黒川さんちの大事な娘さんよ。もしものことがあったら顔向けできないわ。お互い了承済みでも、噂の婚約者が居るっていうのに、りりちゃんを騙すような真似は知らんぷりは出来せん!」


小さい頃から娘のように可愛がってくれた小母さんは、私のトラウマの顛末を知る1人で、男女関係には中々厳しいのだ。

社会人として働き始めの頃は、女子中・高上がりで男性にますます免疫がない私をよく気遣ってくれた。

「りりちゃん可愛いんだから、もし変なおじさんに絡まれたら直ぐ颯ちゃんを呼ぶのよ」て、あの奇異な容姿の私にちょっかいを出すもの好きはいないのに、本気で心配してくれてた。

それが、その頼るべき颯ちゃんと私が、あんな事をしていたら……色々危惧する部分があるんだろう。

小母さん、ごめんなさい……。


「母親が、息子を信用出来ないの?だいたいその女と婚約した覚えはないし、あっちが勝手に讒言して歩いただけだ。父さんと祖父さんにはちゃんと報告してある」

「私にも言ってくれれば良かったのに……。てっきり、テレて紹介してくれないんだと思ってたわ」

「何も言わないことで解って貰えてると思ってたよ。だいたい本気の女以外連れて来ないし、親に会わせない。リリー以外連れて来た事なかったでしょ?」

「颯ちゃん、それって……」

「リリーに本気って事」


プロポーズまでされてるのに、本気だと言われると嬉しさで顔を紅潮してしまう。

小母さんは瞠目して口元を覆って飛び上がった。

颯ちゃんは事前に玄関に用意してあったらしい菓子箱の入った紙袋を持つと、扉を開ける。


「もう結婚するから、小父さん帰って来てるうちに挨拶してくるよ」

「結婚!?」

「リリーお腹に赤ちゃんがいるんだ。じゃあ行ってくるよ」


造作もないような様子で言うと、凍り付いた小母さんを残して扉をしめた。

その向こう側から、小母さんの絶叫する声がした。