颯ちゃんも頭を掻いて起き上がり、小母さんが立っていた方を見て、微かに「ちっ」と舌打ち。
「いいところだったのに」
残念そうに呟くと、触れるだけのキスをして「ちょっと待ってて」と歩きにくそうに何処かへ出て行ってしまった。
大丈夫かな?と思いつつ、この隙に、乱れた衣類と髪を整えよう。
前髪は、颯ちゃんがしてくれたようにアップしてバレッタで頭上で留めた直した。
鏡には、やっぱりりこが映っていて、これが自分の顔だと思うと面映ゆくて仕方ない。
愛用していた鏡は、本当に魔法の鏡なんじゃないかと訝しんでしまう。
自分の顔と睨めっこしても、何か仕掛けがあるでもなさそうだし。
本当に私なんだと思うと、狐につままれた気分だ。
暫くして、スーツを着替えた颯ちゃんが戻って来た。
きちんと前髪をアップしてる私に、ふんわり微笑んだ。
私は私で、久しぶりに見る颯ちゃんのスーツ姿カッコいいな……、なんて見惚れたりして。
手を差し出され立ち上がると、鏡は持ち帰っていいらしく、鞄にしまった。
颯ちゃんは額にキスを落とし、瞳が合うと唇にも口づけされる。
思うに、颯ちゃんはキス魔だと思う。
嬉しいし嫌じゃないけど、リリーとしてキスをするのは恥ずかしくて、頬が赤くなるのは否めない。
だって私の恋愛経験値ってもの凄く低いでしょ?
しかも、ずーっと隠してきた顔を表にだして1時間も経ってない。
キスした後って、どういう顔をしたらいいのか解らなくて、俯いた。
「今日小父さん帰って来るんだよね?」
「うん。もう家にいると思う」
お父さんが帰って来ると、いつも颯ちゃんと一緒にお酒を酌み交わしていた。
お母さんもそれを解ってて肴を用意してるんだけど……。
今回は、私と颯ちゃんがギクシャクしてるのを知っているから、どうだろう?
「これから、小父さんと小母さんに結婚の挨拶するから」
「えっ!?あの……はい」
結婚の挨拶!
だからわざわざスーツを着替えて来たんだ。
暑いのにジャケットも着用し、きちっと装いを極める姿は惚れ惚れしてカッコイイ。
さっきプロポーズされたばかりで、もう両親に結婚の報告なんて。
ちょっと展開が早い気もするけど、妊娠も含め、転勤中のお父さんが一時帰宅して両親が揃ってるのを考慮すると、このタイミングしかないかもしれない。