それは、基本、私が自分の席から移動しないからです。
「さっき社食で、2人が言っていた容姿の娘を見つけて、好奇心で同席してみたんだ」
出来れば、そのままほっといて欲しかった……。
「あいつらが、いつも口々に黒川が綺麗だって褒めるもんだから、ずっと興味があって」
聞きなれない言葉に、脳の理解が遅れる。
えっと……もしかして、私と河原さんと間違ってるんじゃ……。
そんな私の心を読んだかのように言葉は繋がれる。
「言っとくけど、人違いじゃないから。聞いてた容姿と寸分の狂いもないし」
確かに、こんな恰好はうちの課では……この会社では私だけですよね。
不意に、影が落ちた。
顔を上げると、いつの間にか至近距離に男性の整った顔があって、心臓が大きく飛び跳ねた。
颯ちゃん以外の男性と、こんなに一緒に居るのも近づくのも初めてで、ベンチから落ちそうなほど戦き後ずさる。
「なっ、なんですかっ!?」
「あ、いや……悪い。ただ、あいつらから聞いてた通り、近くでよく見るのとパッと見での印象がかなり違うと思って……」
やっぱりブスだと言いたいのかもしれない。
濁された語尾を想像して、身体の熱が一気に冷めていくような気がした。
軽く、眩暈がする。
勝手に期待されて、勝手に落胆されて。
私だって、不本意なのに……。
胃がムカムカして、食べた物をリバースしそうなくらい気持ちが悪い。
今すぐこの場から逃げ出したいのに、足に力が入らずすぐに立ち上がれそうにない。
キーンと、耳鳴りがしてる気がする。
体の芯が震え出しそうになのを抑えるので精一杯だった。
過去、毎日何十回と「ブスっ」と浴びせられ、自分が不細工だという事を自覚した。
その言葉は、耳を塞いでも耳鳴りのように追いかけてきては頭に響いて。
休みの日も幻聴が聞こえるほど、私の心を蝕んだ。
過去の自分の残像が脳裏をかすめ、振り払うように頭を左右に振る。
目の前が潤み始め、涙が零れそうになって必死で堪えた。
「その前髪あげるだけで、だいぶ変わると思うけど」
隣から手が伸びてきて、私の長く伸びた前髪を掬い上げよう触れてきた。