恐くて、勇気が欲しくて同じ質問をしても、颯ちゃんは面倒臭がらず淀みなかった。


「……私、颯ちゃんの婚約者なの?」

「婚約者だよ。昔、言ったでしょ?大きくなったら俺のお嫁さんになるって」

「…………言ったぁ~」


視界がみるみる滲み、大粒の涙が零れた。

颯ちゃんのお嫁さんになる、そう言ったのはまだ小学校にも上がってない時の話だ。

そんな小さい頃の何の確証もない話を本気にしてくれてたの?

物事の善し悪しの判別もつかない子供の言葉を、ずっと覚えててくれたんだ……。

颯ちゃんとは8歳違うし、私なんか全然子供だし。

王子様みたいな颯ちゃんなら、もっと大人で綺麗で良い人が沢山居たはずなのに。


「私でいいの?」

「リリーがいい、てか、リリーじゃなきゃダメなんだ」


しつこいくらい確認する私に、颯ちゃんは嫌な顔1つせず背中をおしてくれる。

颯ちゃんが愛する……私の姿……。

喉が渇いて、ゴクリと鳴った。

1度だけ……。

1度だけ、自分の姿を見れば、いいんだよね?

颯ちゃんから手鏡を受け取ると、そっと呼吸を整える。

私ですら、自分の顔をみるのなんて十数年ぶりだった。

りこに変身する時も、ある程度肌に色をのせるまで小さな鏡で顔を見ないよう気を付けてたし。

鏡の持ち手部分が、緊張で手汗でぬるつき、しっかり握りなおす。

15㎝ほどの大きさの鏡を、自分の顔に照準を合わせる。

そこに映るもの。

ノーメイクのせいか、若干目鼻立ちがぼやけ気味だけどよく見知った顔で、息を飲んだ。

ぱっちり二重の大きな瞳が印象的な……。


――――――りこ?


鏡の中には、すっぴんのりこが居た。

部屋には颯ちゃんと2人しか居ないし、こんな正面に他人の顔が入り込むなんて有りえない。

あったとしても、そんなリアルホラーは慎んでお断りだわ。

子供の頃、この魔法の鏡で私もお姫様になりたいと願いお伽話の世界に浸った。

その時の私の想念が、ただの鏡を本当に魔法の鏡にしちゃったとか??

いやいや、それこそ有りえない。

間違って手品用の鏡を買ったのかな?

鏡を裏返しても角度を変えても、そこに居るのは紛れもなくりこだった。