颯ちゃんは徐にポケットからリボンのついたバレッタを取り出した。

りこが使ってたやつ、持っててくれたんだ。

颯ちゃんは、私を抱く手を解くと向かい合うように座れなおす。


「梨々子、俺を信じて」


念を押すようにそう言うと、私の顔をカーテンのように遮蔽した前髪を器用にまとめあげた。

突然の事に悲鳴を上げる暇もなく石のよう固まる私。

パチンと頭上でバレッタで固定され、素顔が露出した。

幼少期に散々ブスと罵られ、これまでずっと秘匿し続けた素顔。

それが大好きな人の前に御開帳され、瞳の前を闇が覆いだす。


「ヤダっ!見ないで」


過去の自分の残像が脳裏をかすめ、手で顔を秘し隠す。

りこメイクしてないのに、不細工な顔は、颯ちゃんに見られたくない。

何処からともなく『ブースっ』と幻聴が迫って来る気配がした。

こんな不細工な顔を見られてしまったら、私は……私は……っ。

息苦しさを感じ、心臓がバクバク脈打ち、冷や汗が流れる。

颯ちゃんは、そんな私を無視して顔を覆う手を掴まれむと左右に開いた。


「梨々子」

「ヤダヤダ!離して!」


こんな顔、誰にも見られたくないのに、颯ちゃん酷い!

颯ちゃんは綺麗な顔だから、私みたいなブスが卑しまれ蔑む視線に晒される人の気持ちなんて解らないんだ!

子供の時みたいに「ブース、ブース」とせせら笑う声が鼓膜に響く。

ブルブル震え、暴れる私の手首をしっかり握って、颯ちゃんは離してくれない。


「リリー聞いて。君は綺麗だ。誰もが振り返るくらい、本当に綺麗なんだ。散々リリーに向けられてきた無遠慮な視線は、美しいものをみたいという人の憧憬だったんだ」

「嘘よ!皆して私を嗤ったじゃない。颯ちゃんだって皆と同じよ!」

「俺は違う!」

「一緒だもん!メイクしたりこは綺麗だから、リリーだと知ってても付き合えたし、抱けただけでしょ!リリーに気が付かないフリをしたのは、リリーに戻って欲しくなかっただけじゃない!だけど、私はリリーなの!ブスって泥団子投げつけられたリリーなの!」


懐疑心で興奮する私に、颯ちゃんが「梨々子!!」と大声をあげ、私はビクッと動きをとめた。