「そこからか~」
私の頭にコツンと額をうった。
項垂れる颯ちゃんに、瞳を白黒させる。
「リリーの会社の飲み会の日。酔ったリリーを連れて帰ったの、俺、だよ」
「えっ!?」
驚きのあまり大きな声が出た。
あの時、確かに水戸さんに身体を支えられてたし、水戸さんの声もしてた。
そもそも私が水戸さんと颯ちゃんの声を聞き間違えるなんて有りえないのに、送ってきてくれたのは颯ちゃん?
「まぁ、そこはリリーも寝てたみたいだから、覚えてなくても仕方ないね。あの日、俺もちょうどあの界隈で接待があって近くにいたんだよ。仕事が終わって帰るとき、リリーが水戸さんに抱きかかえられて店から出て来たのを見つけて、タクシー乗る直前で俺が代わったんだよ」
そう、だったんだ……。
だから颯ちゃんは私の部屋に居て……その、色々と……。
ゴホン。
そう言えば、うちの女子社員が外で颯ちゃんを見たって騒いでたなぁ。
自分の疑わしき記憶を辿ってみる。
あ、でもあの時確かに懐かしい抱かれる感覚が凄く懐かしくて安心したったけ?
あれは……颯ちゃんだったからなんだ。
「じゃあ、次ね。帰ってきてからどうした?」
「ベッドに寝てて……起きてから颯ちゃんに……お水貰って、飲んだ……?」
しかも口移しだった気がする!
あ~、もう顔が熱い!
「うん。それから?」
「颯ちゃんに……私が、りこ……だって、言って……」
颯ちゃんを謀り、別れて会えなくて……寂しくて、苦しくて。
泣きながら、私がりこだって、好きだって言ったんだよね。
思い出すと胸が苦しくなって、涙腺が緩みだす。
それに気づいたのか、颯ちゃんはこめかみにキスを落としてきた。
鼓動が跳ねる。
「それからどうしたっけ?」
意地悪な質問だ。
「颯ちゃんと……し、し、し……シタ……」
「うん。ちゃんと覚えてはいるみたいだね」
あまりに意地悪で、私は恥ずかしさのあまり身体中を沸騰させた。
満足したように颯ちゃんは微笑み、抱きしめる膂力が増す。
「少し、補足しようか。俺にとって、リリーだろうとりこだろうと黒川梨々子でしかない。黒川梨々子は俺の唯一であり、愛人ではなく婚約者だ。俺は梨々子を愛してるし、裏切る事はない」