瞳を大きく瞠る。
あの夜の出来事は……夢じゃなかったの……?
あの時、確か、自分がりこだとカミングアウトして、ずっと秘めてた想いを告白したのに。
それから……颯ちゃんと…………キスして、最後まで……。
きゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ。
颯ちゃんと想いが通じあったと思った夢は、夢じゃなくて現実?
颯ちゃんに好きって言われて、熱い絡みを思い出すと………リアルすぎて、顔が熱い!
1人、青くなったり赤くなったり。
明らかに狼狽える私に、颯ちゃんは不審気に瞳を眇めた。
「まさか……覚えてない?」
「お、覚えてるっ」
ちゃんと覚えている、嘘じゃない。
ただ、ちょっと記憶障害というか、記憶の行き違いというか……。
それにしても、颯ちゃんは流石と言うべきか、よく私の異変に気付くものだ。
18年一緒に過ごした時間は伊達じゃないってやつ?
そう言えば、過去、颯ちゃんに隠し事してバレなかった事はない。
当時食べられなかったピーマン、シイタケ。
颯ちゃんが席を外したすきに❝ポイ❞した時も、何故かバレて注意されたのは1度や2度じゃない。
夢が現実なら、あの夜、颯ちゃんはりこがリリーだと初めから知っていたって言ってた(はず)。
あんなに容貌を転じた私を見抜くなんて、颯ちゃんの観察力は鋭すぎる。
颯ちゃんは組んだ腕の指先でトントンとリズムを刻み考え込む素振りを見せる。
肺からめいいっぱい息を吐きだすと、私を引き寄せた。
「よし、答え合わせをしよう」
自分の身体に私の身体が沿うように片腕で抱き込んだ。
しなやかな腕の中。
胸板の厚さ、感触、体温を知る身としては、変に意識してしまって尋常じゃないほど鼓動が早鐘をうつ。
りこで居る時と、リリーとしている時では、心構えというか……意識する部分が違うのだ。
りこは恋人、リリーは家族。
その境界線が取り払われると、どうしたらいいのか対応に困る。
か、顔が……顔が熱い!
「まず、会社の飲み会?あれは池田の小父さんの送別会かな?あの時、リリーはどうやって家に帰ったの?」
「た、タクシーで」
「誰と?」
「み、水戸さんに、送ってもらって……」
颯ちゃんの前で他の男の人の名前を出すのは躊躇われたけど、この場合はしかたないよね?