表情も変える事なく、ただ真っすぐ前を見て運転している。
いつもより、少しスピードが出ているように感じるのは気の所為かな?
聞きたい事は沢山ある。
たけど、車内に立ち込める無言が、発言を拒んでいるかのようで妙な緊張感に満ちていた。
しかも、別れて以来会う颯ちゃんと密室で2人だという事とが更に拍車をかけ、言葉を紡げない。
「颯ちゃん……」
呟くように呼び掛けると、
「後で聞く」
ぴはゃりと会話を切られた。
颯ちゃんの不機嫌を隠さない様から逃げるように、窓の外の滲む景色を眺める。
声を噛み殺して肩を震わせていると、シートに添えていた手を握られた。
それに、少し安堵して、きつく握り返した。
着いた病院は、颯ちゃんの友人の正也さんが勤める高坂病院だった。
颯ちゃんが事前に連絡してくれたお陰で、到着するとすぐに診てもらう事が出来た。
幸い赤ちゃんに異常もなく、頬も多少ピリピリするものの、ほぼ腫れがひいていた。
診てくれた女医さんは「妊婦に手を出すなんて、同じ女として信じられない!」とご立腹だったけど、一先ず何もなくて良かったと安堵した。
何点か留意点を説明され、悪阻中は無理して食べず、食べられるものも限られてしまうらしいから、できる範囲内で、食べられる時に食べられる物を少量ずつ食べるように言われた。
又、ストレスを感じることも多い時期で、ホルモンバランスも崩れるし、不安で情緒不安定になりやすくなるから家族が心身ともにサポートするように、と。
これは、お腹の子の父親として隣で話を聞く颯ちゃんに。
瞳を赤くして、涙の痕を残す私の顔を見て、颯ちゃんに注意喚起を促しながら、私達のきつく繋がれた手に毒気を抜かれたようで、最後は笑っていた。
帰り際、タイミングを見計らったかのように正也さんが現れた。
相変わらず不機嫌全開の颯ちゃんにも臆せず、冷やかしつつ、私の容態を確認して見送ってくれた。
「リリー、家に入る前にうちに寄って」
家に着くと、終始無言だった颯ちゃんに隣の自分の家に誘ってきた。
大人しく後ろをついて家にお邪魔して、キッチンで夕食準備中の小母さんに軽く挨拶をして部屋に颯ちゃんの部屋に入った。